オーストラリア出身のニック・ケイヴは、1981年にバースデイ・パーティというバンド、というか、前衛音楽集団でデビューした。
彼らはロンドンで活動して「世界で最も暴力的なライブバンド」と呼ばれ、その独特の野性味あふれる前衛サウンドで、解散した後に伝説となった。
その中心人物であったニック・ケイヴは1984年にソロ・デビューする。
その後もドイツの前衛グループ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの中心人物ブリクサ・バーゲルトをギタリストに据えたザ・バッド・シーズと共にダークな世界観の実験的な作風が続いたが、1990年、ヘロイン中毒に陥っていた彼が、ヘロインを断つためにブラジルへ移住したあたりから作風が一変した。
ゴスペル風でもあり、南米土着の俗謡風でもあり、レトロな大衆歌でもあるような、時代を超越したような普遍性のある「歌」が充実し、それによってどのジャンルにも属さないニック・ケイヴという独自の音楽を究めて行くことになる。
しかし何と言っても彼の魅力は、ロック界でも唯一無比のあのバリトン・ヴォイスだ。
まさにCAVE(洞窟)の名にふさわしい、深い闇の奥から聴こえてくるような不気味な快感でもあれば、力強く、誠実で、耽美的でもあるような、心にズンと響く声だ。
以下はわたしがお薦めする、最初に聴くべきニック・ケイヴの至極の名曲5選です。
The Weeping Song
ニック・ケイヴの作風が一変し、暗いながらも「歌」に溢れた名盤6thアルバム『ザ・グッド・サン(The Good Son)』からのシングル。
バッド・シーズのギタリスト、ブリクサとのデュエットのスタイルで歌われる曲で、ブリクサはあのバリトン・ヴォイスのニック・ケイヴのさらに下を歌う。
The Ship Song
『ザ・グッド・サン』からのシングルで、インディ・シーンで注目を集めた、ニック・ケイヴの出世作。
当時の日本の音楽雑誌では「暗黒大王」などと揶揄されていたニック・ケイヴがそのイメージを脱ぎ捨て、大海に出航していく船が目に浮かぶような、ただただストレートでスケールの大きい、ドラマチックな歌だ。
Straight To You
7枚目のアルバム『ヘンリーズ・ドリーム(Henry’s Dream)』からのシングル。
ニック・ケイヴの突然の音楽的変化を、口の悪い評論家は「キャバレーのドサ回りのような」とも評したが、このPVのパロディ的な演出を見ると、たぶん本人もそんなイメージを自覚していたのかもしれない。それでもあくまで前向きに、シンプルに良い曲を書くことを追求したようだ。
当時からまったく流行と関係ない音楽性だったけど、だからこそ現在でも色褪せない名曲として聴ける。
Red Right Hand
全豪8位、全英12位と初めてのヒット・アルバムとなった8th『レット・ラヴ・イン(Let Love In)』からのシングル。
その後TVシリーズの主題歌になったり、様々なアーティストにカバーされるなど、ニック・ケイヴの代表曲となった曲だ。
Where The Wild Roses Grow
全10曲がすべて殺人の歌という恐るべきアルバム『マーダー・バラッズ(Murder Ballads)』からのシングル。全豪2位、全英11位と、彼にとって最高位のシングル・ヒットとなった。
ニック・ケイヴがもともと大ファンで、グッズまで集めていたというカイリー・ミノーグとの念願のデュエット作だ。PVには職権濫用としか思えないセクハラシーンあり。
「ホエア・ザ・ワイルド・ローゼズ・グロウ」の過去記事はこちら
選んだ5曲がぶっ続けで聴けるプレイリストを作成しましたのたで、ご利用ください。
入門用にニック・ケイヴのアルバムを最初に聴くなら、1998年にリリースされたベスト盤『The Best of Nick Cave and The Bad Seeds』がお薦め。今回選んだ5曲も含め、最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されています。
(by goro)