≪オールタイム・グレイテスト・ソング 500≫ その279
Roy Orbison – You Got It
若い頃はわからなかったけど、最近になってその音楽にとても魅了されるようになったのがこのロイ・オービソンだ。
その楽曲も、とてもオーソドックスなポップスやロックンロールだったり、それを実験的なほどにひねりまくってたり、1周回って感動的でさえあったりと、その奥の深さが面白い。
そしてもちろん、この声だろう。
彼の声の魅力は唯一無比のものだ。
このなめらかで、どこまででも届きそうなのびやかな声を聴く感動と快感は名状し難い。
彼はただ歌うだけでわれわれに感動を与えてくれる、天使のような存在とも言えるが、しかし彼の人生は幸福なものとは言い難かった。
ジョニー・キャッシュやエルヴィス、チャック・ベリーらと同じ、彼もまた1955年デビュー組だ。
60年代前半まではヒット曲を連発するなど順風満帆だったが、1966年に彼の妻がオートバイ事故で死亡、そして2年後には火事で2人の息子を亡くすという悲劇に見舞われている。
70~80年代はヒット曲に恵まれなかったが、1988年にボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、トム・ペティ、ジェフ・リンとともに、トラヴェリング・ウィルベリーズというバンドを組んでアルバムを出し、これが世界的に大ヒットした。
しかしそのアルバム発売からわずか2か月後に、ロイ・オービソンは心筋梗塞のため急死してしまう。
まだたったの52歳だった。
今回選んだこの「ユー・ガット・イット」は、彼が死の直前にレコーディング中だったソロアルバムからのシングルカットで、彼の死から1か月後に発売されたものだ。
この曲は世界各国でトップ10入りするなど、大ヒットした。
ヒットしたのは彼の死の直後ということもあったのだろうが、それを抜きにしてもこの曲は素晴らしい。
わたしはそんな背景も知らずにたまたま聴いたのだけど、聴いている途中でノドのあたりがぎゅーっとしめつけられるほど、なにか感極まるような、込み上げてくるようなものがあった。そんなことは滅多にあることではないので、自分でも驚いたことをよく覚えている。
それがきっかけでわたしはロイ・オービソンを聴きはじめたのだ。
それにしても、今回見つけた動画は、死後に発表された曲にも関わらず、歌っている姿が残っているのが意外だった。
死のわずか半月前、ベルギーでのTV出演時の映像だ。制作中だったアルバムから、ひと足早く新曲を披露したのだろう。自信作だったに違いない。
そして死後にこの曲が発売されて世界で唯一、チャート1位に輝いたのもこのベルギーだった。
ロイ・オービソンを愛した、ベルギーの民に永遠の幸あれ。