作詞・作曲:松岡充 編曲:SOPHIA
古今東西のロックで、このわたしのことを歌った歌は1,000曲以上にも及ぶが、特にこの曲はわたしのことしか歌っていないという意味で、初めて聴いた時は驚愕した。
SOPHIAの9枚目のシングルとして発表され、オリコンチャート4位のヒットとなった。
日本のメジャー系ロック・バンド、とくに「ヴィジュアル系」と括られるバンドがわたしはお化けよりも宿題よりも苦手だったけれど、このSOPHIAには前作のシングル「黒いブーツ」あたりから興味を惹かれていた。
当時わたしは32歳で、再就職して1年が過ぎ、順調に昇進して、順調に給料も上がり、誰に言われたわけでもなく、だれのためというわけでもなく仕事に猛烈に打ち込んでいた。
まともに飯が食えるだけでもありがたかったし、薄ぼんやりと幸福を感じ始めてはいたものの、同時に「この道はどこへ続く道なんだろう?」という不安がゆっくりと鎌首をもたげてもきていた。
青春ももう終わったし、結局大したもんにはなれんかったなあと、社会のはじっこのほうでささやかな日常を送っていることになんだか、薄ら馬鹿な若者特有の敗北感を感じていたのかもしれない。
そんなわたしの、当時は引き締まっていたおケツに、この曲がブッ刺さってきたのだった。
やべ、オレのことを歌ってんじゃん。
そんなふうにこの曲に、聴き入っていた。
2番のサビの前で、まるで決め台詞のように言う「ロックは詳しいぜ!」という、「だからどうした」としかいいようのない、そんなことがなんの役にも立たないことがそろそろわかってきた虚しさ、徒労感、カッコ悪さが、このわたしそのものだと思った。
愛しのBabyはいるのさ
だけどVery気を使うよ
理想的なDaddyになるのさ
危ないクスリもケンカもしたことないよROCKは詳しいぜ!
過ぎたことばかりがなぜ眩しく見えるのかな
あの頃よりも少しは大人だろう?
死にたくなるほど嫌なことなんてひとつもないぜ
だから今日も空っぽで日が暮れる
冷たい部屋のベットでひとり 訳もなく泣けた夜
心の中身を少しだけ捨てた
永久未来続くものなどあるはずはないから
これで行くさ 僕は僕を壊してく(作詞・作曲:松岡充)
今でもこの曲を聴くと、喉の奥に玉のようなものが詰まって、いくら飲み込んでも落ちていかない、そんな苦しい気持ちになる。
そしてあの時、どこへ続いていくのかと不安に思っていた「この道」は、今ここへ辿り着いている。
…………。
ちょっと、泣いていいかな。