【映画】『ワン・プラス・ワン』(1968 英) ★★☆☆☆

ワン・プラス・ワン [DVD]

【音楽映画の快楽】
One Plus One

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演・音楽:ザ・ローリング・ストーンズ

ジャン=リュック・ゴダールは『勝手にしやがれ』(1959)や『気狂いピエロ』(1965)といった名作を残した映画作家で、難解だけど刺激的で美しい映像の作品の数々にわたしも若い頃は夢中になったものだった。でも、この作品に関しては、あまり良い出来とは思えない。

ローリング・ストーンズのレコーディング風景に、それだけじゃ退屈だと思ったのか、三文エロ小説の登場人物の名前を当時の政治家や有名人の名前に変えた朗読を被せたり、当時流行のブラックパワーやベトナム戦争批判などの言辞を被せたり、逆にヒトラーの『わが闘争』を朗読しながらエロ本の表紙を並べてみたり、というコラージュ的な技法を使ってみせるが、残念ながら、それらとストーンズとのあいだになにひとつ面白い化学反応は起きていない。

なんでゴダールがそういうややこしいことをやるかというと、昔はそれが画期的で、実験的で、常識的な映画作りを破壊する、みたいでカッコ良かったのだ。破壊こそが創造であると信じられていた時代の話である。

特にストーンズのファンにとっては、レコーディング・シーン以外は邪魔で退屈なだけである。むしろ、延々と左翼的な政治プロパガンタを聞かされて、うんざりする。

映画全体の出来としては失敗作だけれど、スタジオで曲を磨き上げていくストーンズの映像だけは見るべき価値がある。なにしろ彼らがそこで作っているのは、あの「悪魔を憐れむ歌」という代表曲である。この曲が出来ていく過程をフィルムに収めたのは偶然にすぎないが、まるで悪魔のお導きのように歴史的価値のある映像が残された。

ついでにアルバム『ベガーズ・バンケット』全体の制作風景を、一切なにも余計なものを挟まず、徹底して記録すればそれは当時としては画期的であり、歴史的なドキュメンタリーになったと思うけれど、あまりロックに興味もなさそうなゴダールは、そうはしなかった。残念ながら。

不滅の名曲が出来ていく過程の歴史的映像と、当時流行の左翼思想の礼賛という陳腐な黒歴史的映像の強烈な対比を50年後の観客に見せることを狙って作っていたのだとしたらそれはもう、凄いけれども。
それならゴダールは神だけれども、そんなわけもなかろう。

あらためて、ロック・バンドはみんなで曲を創っていく姿が一番カッコイイなあと思う。

「ストーンズにしか興味ないぜ」という人は、コラージュ部分を飛ばして、ストーンズの録音風景だけを見る「ワン・プラス・ゼロ」で見ても、なんら問題はありません。