【映画】『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977米) ★★★★★

サタデー・ナイト・フィーバー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

【音楽映画の快楽】
Saturday Night Fever

監督:ジョン・バダム
主演:ジョン・トラヴォルタ

わたしはこの映画を観たことがなかった。一度も。

若い頃はディスコ・ミュージックが好きじゃなかったし(まあ今も好きとは言えないけれども)、くだらない敵性音楽と思っていたし、どうせくだらない映画だろう、トラヴォルタの黒歴史だろう、なんて勝手に思い込んでいた。

いやはや。

くだらないのは、わたしの思い込みのほうだった。
なんの根拠もない偏見丸出しのくだらない思い込みが、危うくこんな素晴らしい映画を見逃すところだった。

めちゃくちゃいいじゃないか。

あのトラヴォルタだから、ダンス・シーンが素晴らしいのは予想はしていたけど、予想だにしていなかったのがサイドストーリーの素晴らしさだ。

登場人物たち全員が悩んでいる。
だれもが人生に迷い、自分を見失い、それでも必死に、藁でもいいからつかみたい思いであがいているけど、誰ひとりとして、なにひとつとして成就することなく、人生は否応なく続いていく。重くて深い、胸に刺さる映画だ。

冒頭の、トニー(トラヴォルタ)の家族が食卓について、ふとしたことから口論になり、手も出たりするリアルな描写からわたしは慌てた。
あっ、これはどえらい映画だぞ、と思った。

失業した父の怒りと失意、神父になった長男(トニーの兄)に過剰な期待を寄せる母親、聖職に疑いを持ち、神父を突然辞めてしまう兄。

トニーに想いを寄せるが叶わず、自らの蒔いた種で輪姦されるアネット。恋人を妊娠させてどうしたらいいかわからず自殺するボビー。魅力的な女性なのに自分の現状に満足できず、ウソで固めて現実逃避をするステファニー。トニーとステファニーは、お互いを深く思い遣るけれども、だからこそなのか、結ばれることなく物語は終わる。
どうにもならない閉塞感に悩み苦しみ、孤独に怯え、将来への不安を抱えて道に迷っている人々ばかりだ。

トニーはディスコで、素晴らしいダンスの才能を見せるけれども「こんなの今だけだ。ずっと踊っていられるわけじゃない」とすでに悟っている。
彼は、当分の間は週末のディスコのヒーローで、女の子にもチヤホヤされるだろうけれども、同時に安月給のペンキ屋の店員として、わずかばかりの昇給に一喜一憂する人生を送っていくのだろう。
それでヨシとするべきなのか、するべきでないのか、という若いときにわれわれみんながぶちあたる永遠の難問に、彼も答えが見つからないでいるのだ。

答えのない哀しみや苦しみ、その背後に見え隠れするわずかな喜びの光。なんて深い映画だろう。わたしは胸を打たれた。

こんな凄い映画を、観ようともしないでバカにしていた自分が、恥ずかしくてならない。