Manic Street Preachers – Suicide Is Painless
1992年のレディング・フェスティヴァルは最高だった。
そう、大ブレイク真っただ中のニルヴァーナがトリを務めたことで知られる、あの伝説のフェスだ。
わたしはもちろん生で観たわけではないが、当時、ケーブルテレビの音楽チャンネルの3時間ぐらいの特番であの3日間のフェスのダイジェスト版が放送されたのだった。
出演者はニルヴァーナをはじめ、スマパン、マッドハニー、PJハーヴェイ、ライド、シャーラタンズ、ニック・ケイヴ、ティーンエイジ・ファンクラブ、ペイヴメント、パブリック・エナミーなどなど当時の旬のアーティストたちが見事なまでに勢ぞろいしたものだった。
わたしはVHSビデオに録画して、何度も見返した。わたしにとっては1969年のウッドストック・フェスティヴァルよりも印象に残っているフェスだ。
そしてその中にマニック・ストリート・プリーチャーズもいた。
放送では彼らはこの1曲がチョイスされていた。たぶん当時の彼らの最新シングルで、全英7位と、彼らにとって初めて全英トップテンに入るヒットになったからだろう。
ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドの孤軍奮闘のパフォーマンスも素晴らしく、タイトルも曲もいかにもマニックスらしい曲だったのでわたしはオリジナルだと思って聴いていたのだけど、後でカバーだと知った。
原曲はわたしも観たことがあった『M★A★S★H マッシュ』という1970年のアメリカ映画の主題歌だった。朝鮮戦争を舞台にしたブラック・コメディで、監督はロバート・アルトマン。彼が監督なので期待して観たのだけど、だいぶ期待外れだったという記憶があった。主題歌と言われても、全然憶えていなかった。
この曲の歌詞を村上春樹が『村上ソングス』という本の中で翻訳している。
霧の向こうに未来が見える。
でも、そこにあるのは、ただ痛みだけ。
自殺をすれば痛みは消える。
それがいちばんラクかもね。(作詞:マイケル・アルトマン 作曲:ジョニー・マンデル 訳詞:村上春樹)
なんだかものすごく絶望的で暗い歌詞だけれども、そもそもブラック・コメディの主題歌に使うための曲であり、監督は音楽担当のジョニー・マンデルに「これまでに書かれた中で最も馬鹿げた曲を書いてくれ」と頼んだという。歌詞は監督の、当時14歳の息子に書かせている。
戦場ならではの、極限の状況でのブラック・ジョークのつもりなのだろう。
それをマニックスがやると絶妙にリアルになり、アレンジも完璧で、彼らの初期の代表曲のひとつと言っても過言ではないほどの素晴らしい出来になった。
↓ ジョニー・マンデルのオリジナル。