キッス/ベス(1976)

Destroyer [12 inch Analog]

【70年代ロックの快楽】
Kiss – Beth

4thアルバム『地獄の軍団(Destroyer)』収録曲。ドラマーのピーター・クリスが書いた曲で、リード・ヴォーカルもピーターが取っている。

ベスとは彼の奥さんのことで、バンドの練習中に彼女から連絡があったのだろう。いつも淋しい想いをさせて申し訳ないと、彼女を思いやる気持ちを歌った歌詞だ。

ベス、今は帰れないんだ
バンドの練習中で、まだサウンドが見つからない

もう少ししたら帰れるから
ああ、でも彼らが呼んでる
僕は行かなきゃ

僕はいつもどこかに行ってて
君を孤独にさせてしまっている

という、妙にリアルな歌詞のラヴソングだ。奥様への愛に溢れた歌詞が胸を打つが、最後はしかし、こう締め括られる。

君が寂しいのはわかってる
でも仲間たちとプレイしなきゃいけない
朝までね

と、結局今夜は帰れないことを宣言するのだ。

ここではバンドでの仕事のことを歌っているけれども、結局これは多くの男女間にそびえる永遠の難題、「わたしと仕事とどっちが大事なの?」に対する、「大切なのは君さ。でも仕事はしなくちゃいけない」という本音を、真摯に歌ったものだろう。
男女の立場が逆の場合や同性の場合もあるだろうが、その熱い想いや苦い想いやジレンマに多くの人が共感できるから、この歌は支持を得たのだろう。

そんな真摯な気持ちをお互いに理解できればいいのだけれど、そうとも限らない場合だってあるから厄介だ。想いは平行線を辿り、お互いの価値観を譲らず、やがて平行線は軍事境界線に発展していったりすることだってある。

あの仮面の下の生活感あふれる素顔を晒すような歌詞と、美しいストリングスをメインにしたアレンジによる、キッスのイメージとのギャップ萌えも効果的だった。

最初はシングル「デトロイト・ロック・シティ」のB面に収録されたものの、この「ベス」のほうが注目され、A面とB面を逆にして再発売されると全米7位の大ヒットとなった。これはキッスのシングルとしては最高位だ。

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