4thアルバムは初の全曲オリジナルの力作。しかし迷走と崩壊の兆しも…【ストーンズの60年を聴き倒す】#18

アフターマス (限定盤)(SHM-CD)

『Aftermath』(1966)

The Rolling Stones

ストーンズの4枚目となるオリジナル・アルバム『アフターマス』は1966年4月に英国で発売された。

初の全曲オリジナル曲で構成されたアルバムであり、同時に初のステレオ録音盤でもあった。

SIDE A

  1. マザーズ・リトル・ヘルパー  Mother’s Little Helper
  2. ステュピッド・ガール  Stupid Girl
  3. レディ・ジェーン  Lady Jane
  4. アンダー・マイ・サム  Under My Thumb
  5. 邪魔をするなよ  Doncha Bother Me
  6. ゴーイン・ホーム  Goin’ Home

SIDE B

  1. フライト505  Flight 505
  2. ハイ・アンド・ドライ  High and Dry
  3. アウト・オブ・タイム  Out of Time
  4. イッツ・ノット・イージー  It’s Not Easy
  5. アイ・アム・ウェイティング  I am Waiting
  6. テイク・イット・オア・リーヴ・イット  Take It or Leave It
  7. シンク  Think
  8. ホワット・トゥ・ドゥ  What to Do

アルバムは全英1位、全米2位の大ヒットとなり、ストーンズの最高傑作と賞賛もされたという。

従来通りのブルース、R&Bを基調にした楽曲だけでなく、B-2のようなカントリー風のものや、流行のサイケを取り入れたもの、そして全体的にはポップな曲調のものが増え、音楽性の幅は一気に広がった感じだ。

サウンドも多彩になったが、これにはどんな楽器もいとも簡単に習得してしまう天才・ブライアン・ジョーンズが、シタール、ダルシマー、マリンバ、琴を演奏するなど、マルチプレイヤーとして大きな貢献をした。

しかし一方でブライアンは「もうギターはやめた」と言い出したり、ストーンズとの仕事をほったらかしてセレブパーティーに顔を出すことを好むようになり、さらにはドラッグ漬けになってセッション中に何度もぶっ倒れて、みんなをうんざりさせたという。

(ブライアンは)まともな状態でいるときは頭の回転も動きも信じられないぐらい速いんだ。まわりに転がっている楽器をつかんでとてつもない音を生み出す。「ペイント・イット・ブラック」のシタール、「アンダー・マイ・サム」のマリンバ。ところがその次の5日間、あのろくでなしはまた姿を見せない。まだレコード作りがあるっていうのに。セッションの手配をしたのに、ブライアンはどこだ? 誰も居場所を突き止められず、見つかったときはひどい状態だ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

もともとはブライアンのバンドだったはずのザ・ローリング・ストーンズは、いつの間にかミックとキースに主導権が移り、自分の居場所を失くした思いもあったのだろう。マネージャーのアンドリュー・オールダムと共謀してミックとキースが自分を除け者にしようとしているという妄想にも取り憑かれていたという。

『アフターマス』は、ポップで多彩なサウンドへと進化した代わりに、それまでストーンズ・サウンドの真髄だった、ブライアンとキースの2本のギターの絡み合いは失われてしまった(キースが一人で多重録音はしているが)。そして、ブルース/R&Bにこだわり続けたブライアンというストーンズの精神的支柱が崩壊しつつあるせいなのか、わたしにはどこか芯の無い、表面的な音楽に聴こえてしまう。

全曲オリジナルという時代の要求に応えた力作であることは間違いないし、「アンダー・マイ・サム」や「アウト・オブ・タイム」「マザーズ・リトル・ヘルパー」など良い曲もあるが、しかし他の曲はジャガー/リチャーズの本領発揮とは言えないように思える。

時代は目まぐるしく変化し、ブルースやR&Bのカバーだけでレコードが売れた時代はすでに終わりを告げ、ブリティッシュ・ビート・バンドたちはオリジナル曲で勝負せざるを得なくなっていた。1965年の年末にビートルズが『ラバーソウル』などというオリジナリティに溢れたアルバムをリリースした後となっては尚更だった。

ちょうどこの66年あたりから、ブリティッシュ・ビート・バンドたちはブルース/R&Bのカバー・バンドから脱皮し、トップランナーのビートルズの背中を追いながら、生き残るためにポップな音楽性を指向し、オリジナリティを模索し始めた。

ストーンズがこのアルバムをオリジナル曲のみで構成したことはまったく正しかったと思う。もしもこれが、またブルース/R&Bのカバーを中心にしたものであったとしたら、ストーンズは終わっていただろう。他のブリティッシュ・ビート・バンドの何組かがそうであったように。

しかしビートルズのようなポップ路線やアート路線は、ストーンズには向いていなかったということは、もう少し後でわかる。

その意味でこの力作は一方で、この後2年ほど続くストーンズの迷走時代の第一歩となったとも言えるだろう。

(Goro)

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