迷走の果てのどん詰まり、ストーンズ完全終了間近【ストーンズの60年を聴き倒す】#26

Their Satanic Majesties Request [Analog]

『サタニック・マジェスティーズ』(1967)

“Their Satanic Majesties Request”(1967)
The Rolling Stones

このアルパムが好きだという人がいることも知っているし、価値観の多様性は当然認めるべきなので「問題作」ぐらいにとどめておいたほうがいいのだろうが、ここはわたしの主観を好き放題述べるべき場でもあるので、あえて「失敗作」と断じてしまおう。サイケデリックとコンセプト・アルバムのブームに煽られて迷走した挙句に陥った、行き止まりのどん詰まりだ。

サイケデリックでもコンセプト・アルバムでも実験的作品でも、ビートルズは次々と成功を収めたのと対照的に、ストーンズは無様なほど失敗を繰り返した。

そのうえこのアルバムのレコーディング期間中にはミック、キース、ブライアンの3人が立て続けに大麻所持で逮捕・投獄されるなど、ストーンズは精神的な意味でも物理的な意味でも分裂状態にあった。

さらにブライアンは恋人をキースに奪われるなどして、完全に鬱状態だったという。ストーンズを売り出すことに大成功した敏腕マネージャーであり、デビュー以来全レコードのプロデューサーも務めたアンドリュー・オールダムもストーンズのもとを去り、まさに崩壊寸前だった。

キースはこのアルバムについて次のように語っている。

あの年、長い時間をかけて取ってつけたように作ったのが『ゼア・サタニック・マジェスティーズ・リクエスト』だった。誰も曲なんか作りたくなかったんだが、アルバムを出さなくちゃならない時期だったし、ビートルズが『サージェント・ペパーズ』を出していたから、まあ要するに、うわべだけ取り繕おうと考えたってのが正直なところだ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

また、1990年のインタビューでは、それまで毎日ステージで演奏していたが、初めて1年間休んだ。だからバンドが錆びついていて妙なものになってしまった、とも語っている。そのうえ、アンドリュー・オールダムに関係を断たれたため、自分たちでプロデュースもしなければならなかった。

SIDE A

1. 魔王讃歌 – Sing This All Together
2. 魔王のお城 – Citadel
3. イン・アナザー・ランド – In Another Land」(ビル・ワイマン) 
4. 2000マン – 2000 Man
5. 魔王讃歌(二部) – Sing This All Together (See What Happens)」

SIDE B

1. シーズ・ア・レインボー – She’s a Rainbow
2. ランターン – The Lantern
3. ゴンパー – Gomper
4. 2000光年のかなたに – 2000 Light Years From Home
5. オン・ウィズ・ザ・ショウ – On With the Show

そもそもブルースのような、リアリズムの極地みたいな音楽を信条としていたバンドが、突然ファンタジックなコンセプトのサイケデリック・ミュージックをやっても似合うわけがないのだ。

しかしそんなアルバムにも、掃き溜めの中に咲いた一輪の花のような美しい名曲が収録されている。「シーズ・ア・レインボウ」だ。

美しいピアノのリフレインが印象的で、iMacや進研ゼミのCMにも使用された。ピアノを弾いているのはニッキー・ホプキンスだ。途中のストリングスがまた美しいが、このストリングス・アレンジを担当したのが後のレッド・ツェッペリンのベーシストとなる、ジョン・ポール・ジョーンズだった。

本アルバムの収録曲でライヴ演奏されたことがあるのは「シーズ・ア・レインボウ」ともう1曲「2000光年の彼方に」だが、この曲も悪くはない。

あとは「イン・アナザー・ランド」が、ストーンズの楽曲では唯一となるビル・ワイマンの作で、リード・ヴォーカルをもっているのが貴重と言えば貴重だが、だからと言ってビルの歌声をそんなにありがたがる者がいるとも思えない。

そのビルは自著で、このアルバムに対するアメリカの批評家ジョン・ランドウの手厳しい評価を引用し、それに同意している。

ストーンズは新しいもの=進歩したものと取り違える、よくあるジレンマの罠にかかった…彼等の音楽が成長を続けるには、本作以上に満足できる方法で解決しなくてはならないほど、深刻な危機である。(『ストーン・アローン』ビル・ワイマン/レイ・コールマン著 野間けい子訳)

そう、深刻な危機であった。

次のレコードでもまた同じ過ちを繰り返していたら、ストーンズはおそらく完全終了していたに違いない。

(Goro)

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