甲斐よしひろを中心に福岡市で結成された甲斐バンドは、1974年にシングル「バス通り」でデビューした。
2ndシングル「裏切りの街角」がヒット、ライブを中心に活動して熱狂的なファンを確実に増やしていく。
そして79年の「HERO(ヒーローになる時、それは今)」で大ブレイクし、日本で最も有名なロック・バンドのひとつになった。
わたしも彼らのことを、その「HERO」で知った。小学生の時だった。
それまでもテレビの歌番組に「ロックバンド風」の人たちはたくさん出ていたけれど、甲斐バンドは、ちゃんとロックの世界から来た人たちだという感じがした。
当時流行していた、日本語と英語を混ぜたいい加減な歌詞で「洋楽風」にした「ロックバンド風」の連中とはひと味もふた味も違う、日本の歌謡曲のウェットな質感とロック・サウンドを融合させ、テキトーじゃない日本語で詩的なワードで独特の世界観を歌うカッコ良さにシビれたものだった。
リーダーの甲斐よしひろはその優れたソングライティングだけでも他のテレビ向きバンドとは比較にならないほどだったけれど、それを歌う声がまた絶品だった。
パワフルでワイルドなのに同時に少年のような純粋さやか弱さもあり、粘りつくようなコブシも回す歌い方は甘くセクシーで、日本語ロックの理想的なヴォーカリスだと思ったものだった。
そんな甲斐バンドの名曲をあらためて聴き直し、今でもやっぱり名曲だと思える10曲を選んでみました。
以下は、わたくしゴローが愛する甲斐バンドの至極の名曲ベストテンです。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
甲斐バンドの3枚目のシングルとして発表され、オリコンチャート44位。
アコギをメインに、フィドルが印象的なアレンジがカッコいい。
いくら当時でもなかなかこれだけシンプルなものをシングルで出そうとは他のバンドならしなかったと思うけれども、こういう尖り方が甲斐バンドのカッコいいところだった。
まるでモノクロの映画のワンシーンのように映像が浮かぶ歌詞もいい。
作詞:甲斐よしひろ 作曲:松藤英男 編曲:甲斐バンド・椎名和夫
カネボウのCMソングに起用された、ヒット・シングル。オリコン9位。
ドラムの松藤が作曲し、リード・ヴォーカルも務めている。
なかなかのメロディ・メーカーであることに驚いたが、優しい甘い声もポップな作風によく合っている。
わたしは中学生で、毎日これを口ずさみながら登下校したものだ。
80年代に入って最初のシングルで、70年代の甲斐バンドのイメージとはちょっと違う華やかなアレンジや、明るく爽やかなテイストが新鮮だった。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:青木望
4枚目のアルバム『この夜にさよなら』からの先行シングル。オリコン69位(やっぱり売れてないなー)。
初期の甲斐よしひろのソング・ライティングの急成長を感じさせるような、ドラマチックな曲だ。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐よしひろ&今井裕
甲斐バンドの2枚目のシングルで、オリコン7位の大ヒットとなる。何カ月にも渡って売れ続け、75万枚以上を売り上げた。第8回日本有線大賞優秀新人賞受賞。
甲斐よしひろらしい、青春映画のようなドラマチックな映像が浮かぶ歌詞だ。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐よしひろ&瀬尾一三
「裏切りの街角」以降まったくシングルヒットもなかった甲斐バンドがなぜか大抜擢され、セイコーのCMソングとして発表されて大ヒットした大ブレイク作。オリコン1位。
それまでの甲斐バンドのダークで艶っぽい楽曲のイメージを一新したような、明るくカラッとした、いかにもキャッチーな曲だった。
本人たちもチラッとCMに出演していたけど、当時はコアなファン以外はきっと彼らが誰なのかまったくわからなかったに違いない。
今から考えるとよくそんな大手のCMに抜擢されたものだと思う。
たしかに当時は暴走族のヒーローみたいな存在だった矢沢永吉の曲を資生堂のCMに抜擢したりもしてたし、きっと電通も尖っていた時代だったのだ。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐バンド&石川鷹彦
「HERO」の翌年に発表され、オリコン4位の大ヒットとなった。
当時中学生のわたしは、繰り返しラジオから流れてくるこのロマンチックな曲が大好きで、いつも口づさんでいた記憶がある。
甲斐よしひろの独特のコブシグリグリを真似して歌うのが気持ち良かった。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
甲斐バンドの2ndアルバム『英雄と悪漢』のオープニング・ナンバー。アレンジもハードでカッコいい、勢いのあるロックナンバーだ。
出だしの「映画を見るならフランス映画さ」というフレーズは、きっと現代の若者には理解できないだろう。当時は、アメリカのエンターテインメント映画よりも、フランスの少し難解な作家映画のほうが圧倒的にカッコ良かったのだ。
ポップコーンをほおばって
ポップコーンをほおばって
天使たちの声に耳を傾けている
いやもう、なんてカッコいい歌詞なんだろう。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
6枚目のシングルとして発表され、それまでのフォーク・ロックっぽいイメージの楽曲から脱皮し、クールなロック・サウンドの画期的な曲だった。
タイトルも良いし、ユーモアのある歌詞も素晴らしい。
途中の、受話器を通したような声のエフェクトも印象的だった。
でも、初期のシングルでは唯一、オリコン100位圏外と、まったく売れなかったようだ。
この名曲が売れないとなると、彼らも相当クサったのではないかと想像してしまう。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐バンド&星勝
1980年の4月からスタートした、フジテレビの『土曜ナナハン学園危機一髪』という番組の主題歌として発表された曲。オリコン14位。
「ナナハン」というのは19時半からの放送の意味と、バイクの750ccに引っ掛けてあるのだろう。
連続ドラマではなくて、毎週1話完結の1時間半のドラマを放送する枠で、問題を抱えるティーンエイジャーを主人公にしたシリアスなテーマの話が多かったように思う。
この甲斐バンドの主題歌が圧倒的にカッコ良くて、第1回の放送の翌日に学校の教室で同級生たちと「あの曲めっちゃカッケー!!」(ホントはそんな言い方ではなくて愛知県海部郡の方言だったと思うけど)と盛り上がったことを今でも憶えている。
作詞:長岡和弘 作曲:松藤英男・甲斐よしひろ
8枚目のシングル「そばかすの天使」のB面として発表された曲。
ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」を思わせるようないかにもロック調のイントロで始まりながら、歌に入ると歌謡曲テイストの色濃い歌詞とメロディー、そして甲斐よしひろのコブシの効いた歌い方。甲斐バンドの魅力を凝縮したような名曲だ。
洋楽のロックとはまた違う、和製ロックにしかない、永久に口づさんでいたくなるような言葉とメロディーと声が創り上げた快感のような魅力がある。
以上、《甲斐バンド【名曲ベストテン】My 10 favorite KAI BAND songs》でした。