翼なき野郎ども/泉谷しげる(1978)

80のバラッド

ニッポンの名曲 #41
作詞・作曲:泉谷しげる 編曲:加藤和彦

「眠れない夜」から4年、その間3つのレコード会社を渡り歩き、フォークとロックの狭間で試行錯誤しながらついにたどり着いた境地がこの、初の全曲ロックサウンドのアルバム『’80のバラッド』だった。泉谷流ロックはここに完成を見たが、これはプロデューサーの加藤和彦の手腕によるところも大きい。
「翼なき野郎ども」は『’80のバラッド』の冒頭を飾る曲だ。石井聰亙監督による1980年の映画『狂い咲きサンダーロード』のテーマとしても使用されている。

フォーク・ロックとは一線を画し、歌謡ロックでもない、英米のロックでももちろんない、真っ直ぐ大股歩きのパワフルな8ビートに日本語がしっかりと乗り、日本の風土とは空気感の違うカラッとしてスケールの大きい、ホンモノの「ロック」である。このとき、日本のロックは新たな扉を開いた。

それ自体が巨大な生き物のようにエネルギッシュな都市と、その混沌の中に飲み込まれながらも生きざるを得ない人々の咆哮のような、シビれる歌だ。これほど強靭なエネルギーに満ち満ちたパワフルかつ美しい言葉による歌詞をわたしは他に知らない。
現在ではどのように評価されているかわからないが、わたしの知る限り泉谷しげるは、日本のロック史における最高の詩人のひとりである。

火力の雨降る街角
謎の砂嵐にまかれて
足とられヤクザいらつく午後の地獄
ふざけた街にこそ家族がいる
こんな街じゃおれの遊び場なんて
とっくに消えてしまったぜ
なのに風にならない都市よ
なぜおれに力をくれる
ああ、イラつくぜ ああ、感じるぜ
とびきりの女に会いに行こう

ふざけたこの街でなにしよう
働いて食って寝るだけの窓
土曜の夜は女といなくちゃ寂しいぜ
ヤニだらけのおれのピンボール
こんな街だから
なにもしなくてもイラつく
なのに風にならない都市よ
なぜおれに力をくれる
ああ、イラつくぜ ああ、感じるぜ
とびきりの女に会いに行こう

地鳴りする都市よ
なぜおれに力をくれる
風にならない都市よ
なぜおれに力をくれる
ああ、感じるぜ ああ、燃えてくるぜ
とびきりの女に会いに行こう
(『翼なき野郎ども』作詞・作曲:泉谷しげる)

オリジナル以外にもライブ盤やセルフカバーなど、数多くのバージョンが存在するが、わたしが最も好きなのは1980年のライブ盤『オールナイト・ライブ』のバージョンだ。サポートバンドはBANANAで、吉田健(b)、正木五郎(dr)、柴山好正(g)、柴山和彦(g)、中西康晴(key)、小林勇司(sax)という強力布陣である。

わたしが最初に買った泉谷しげるのアルバムがたまたまこの『オールナイト・ライブ』(1980)というレコードで、そのアルバムの冒頭を飾る曲だった。あの、エネルギーが有り余ってビリビリと帯電して湯気をあげているかのような、ド迫力の泉谷しげるのヴォーカルに圧倒された。このアルバムは、わたしが生涯で最も多く繰り返し聴いたアルバムである。

この曲が心にぶっ刺さって抜けなくなって以来、いろんな街を歩きながら、勝手に自分のテーマ曲と決め込み、いつもこの曲を口づさんでいたように思う。この曲を口づさむと、傷ついたり、あきらめたり、拗ねたり、ひがんだり、空回りしたり、自己嫌悪に陥って疲労困憊になって失われていく”生”のバッテリーが、再びビリビリと充電されるていくような気分になった。

わたしは泉谷しげるのライブは30年ほど前に2度体験したが、この曲はそのどちらもアンコールで歌われた。曲のエンディングで「負けんじゃねえぞ、おまえら! 勝てよ!!」と、会場にいるすべての翼なき野郎どもに向かって泉谷は叫んだ。20代だった翼なきわたしは泣いた。オイオイと号泣した。

わたしはこの歌が、日本のすべての歌の中で、いちばん好きな歌だ。