ジョニー・キャッシュ/孤独の旅路(2003)

Unearthed

【カバーの快楽】
Johnny Cash – Heart Of Gold(Neil Young)

わたしより3つ年上のアメリカ人、リック・ルービンというプロデューサーには、同世代ながら、リスペクトと感謝の念が止まらない。

80年代にニューヨークでデフ・ジャム・レコードを立ち上げ、RUN-D.M.C.とエアロスミスを共演させたことで名を上げ、その後もレッチリやパブリック・エナミー、スレイヤー、メタリカ、キッド・ロックなどの数々の名盤を生み出した名プロデューサーとして知られるリック・ルービンだが、わたしはなんといっても、晩年のジョニー・キャッシュを引っ張り出して録音させた、『アメリカン・レコーディングス』シリーズに深い感謝と敬意を捧げる。

1994年に始まったこのシリーズは、62歳のジョニー・キャッシュから、死の前年の70歳まで、最晩年の彼の「声」が遺されている。

もともとリック・ルービンがアメリカのルーツ・ミュージックに深い関心を寄せていったことから、彼の方からジョニー・キャッシュにオファーしたものだ。

アルバム5枚と、山のようなアウトテイクが遺されたが、よくぞこれを遺してくれたものだと思う。
ジョニー・キャッシュも、よくぞ30歳年下の若造の無茶ぶりに従って、若造が選んだ曲を。若造の家のリビングで歌い、録音させたものだと思う。
きっと若造からの心底のリスペクトと、このレコードを作る意義を理解したのだろう。

ジョニー・キャッシュはもともと素晴らしい低音ヴォイスの持ち主だが、最晩年の声には鳥肌が立つほどの凄味がさらに増し、わたしは衝撃を受けた。

壮絶な人生の苦しみや哀しみによって顔に深い皺が刻み込まれるように、彼の声にも深い皺や傷痕が刻み込まれ、そして同時に、苦しみに耐えてきた強靭なパワーも感じられる。

「リアリティ」という意味で、これに勝る声は無いと思うほどだ。
わたしは若者たちが歌うロックを永く聴いてきたけれど、これを聴いて以来、歌声に対する考えや聴き方が根本から変わった気がする。

このニール・ヤングのカバー「孤独の旅路」は、生前に発表した『アメリカン・レコーディングス』の4作には収録されなかったが、ジョニーの死から2か月後に発表されたCD3枚組のアウトテイク集『Unearthed』に収録された。
このBOXセットはその死の間際まで、ジョニーとリック・ルービンが選曲・編集を進めていたものだった。

ニール・ヤングとは真逆と言っていい声質で歌われるこの曲もまた味わい深い。
エレキギターでソロを弾いているのは、レッチリのジョン・フルシアンテだ。

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