RCサクセション/アイ・シャル・ビー・リリースト(1988)

 コブラの悩み(限定盤)(UHQCD/MQA)

【カバーの快楽】
RC Succession – I Shall Be Released

オリジナルはザ・バンドの1968年発表の1stアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』に収録された楽曲。ボブ・ディラン作で、ザ・バンドの代表曲として知られているが、リード・ヴォーカルはリチャード・マニュエルがファルセットで歌っているという、ザ・バンドとしてはどちらかというと異色の曲ではある。

世界中で、ジャンルを問わず、多くのアーティストがカバーしている。たぶんボブ・ディランの曲でいちばんカバーされているのが「風に吹かれて」とこの曲ではないかと思う。

いろんなカバーを挙げて行くときりがないので、ここでは日本人アーティストによるカバーを紹介してみたい。

1960年代末という時代に、日本でも当時の学生運動や反体制フォークのムーヴメントと歌詞がリンクして特に人気を集め、日本語詞によるカバーも多く存在する。

最も古いもののひとつで、有名なのはザ・ディランⅡの1972年発表のシングル「男らしいってわかるかい」だ。訳詞はメンバーの1人、大塚まさじによる。
日本語にすることによってメロディの印象もずいぶん変わり、歌詞も直訳というよりは、独自の言葉を多く入れている。

岡林信康やBEGINなどもオリジナルの訳詞で歌っているが、やっぱりなんといっても凄いのはRCサクセションのカバーだ。訳詞はもちろん忌野清志郎。1988年発表のライヴ盤『コブラの悩み』のオープニング・ナンバーだ。

『カバーズ』の発売中止騒動の直後のライヴであり、内容的にも、このライヴのために急遽作られたカバー・バージョンと思われる。

核や原発を批判した歌が問題視されて東芝EMIが発売中止したものであり、親会社の東芝からの圧力と言われているが、全然別業種の親会社が歌の歌詞のことなんかまで気にするなどとは正直思えないので、わたしは東芝EMIの管理職あたりが親会社に対してソンタクしたのではないかと想像する。だいたい会社でもなんでも、圧力をかけてくるのは中間に居る、上に対してビクビクしている小物野郎の事なかれ主義と相場が決まっているものだ。

頭の悪いやつらが
圧力をかけてくる
あきれてものも言えねえ
またしてもものが言えない
権力を振り回すやつらが

またわがままを言う
俺を黙らせようとしたが
返って宣伝になってしまったとさ

日はまた昇るだろう
このさびれた国にも
いつの日にか いつの日にか
自由に歌えるさ

(訳詞:忌野清志郎)

出だしからもう凄いインパクトだ。ワード・チョイスの衝撃力は天才的な詩人だからこそのなせる業だ。

「アイ・シャル・ビー・リリースト」の翻訳というよりは、自身の体験のほうに寄せて書かれた「替え歌」的なものであるが、凄いのはやっぱり、曲のキモであるメロディを損なわないように言葉が選ばれ、さらに歌い方で工夫していること、そして替え歌でありながらトータルとしては原曲にいちばん近い精神を表現しているというところだ。

正直、数々の日本語訳とは比較にならないほどだ。結局はもともとの作詩センス、作曲能力がものを言う、天才的なソングライターだからこその「名訳」だ。

↓ ディランⅡ「男らしいってわかるかい」

↓ りりぃはオリジナルの英語詞でそのまま歌っているけど、素晴らしい歌唱だ。

↓ ザ・バンドのオリジナル。