ボブ・ディラン/風に吹かれて (1963)【’60s Rock Masterpiece】

Blowin' in the Wind - Wikipedia

【60年代ロックの名曲】
Bob Dylan
Blowin’ In The Wind (1963)

1963年5月に発表されたディランの2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』の冒頭を飾る曲だ。

発表の翌月には、当時のフォーク・ブームの中心地ニューヨークで、反戦歌などを歌って人気を得ていたフォーク・グループ、ピーター・ポール&マリーによってカバーされ、全米2位の大ヒットとなった。

オリジナル・バージョンも8月にシングル・カットされたが、こちらはヒットチャートを上がることはなかった。しかしその後この曲は、当時の世界的なフォーク・ブームを代表する名曲として、そして1960年代という戦後世代の若者たちによる反戦運動などの、政治や社会に対する意識の高まりと共に、新しい価値観を象徴する名曲として、世界中で愛唱され、「利用」された。

音楽的には非常にシンプルなく曲だが、しかしこの曲には今あらためて聴いても、やはり特別ななにかがある。世界中で愛され、歌われるのはやはりそれなりのものを持っているのだ。

どれだけ歩けば立派な男になれるのか
どれだけ海を越えれば白い鳩は陸にたどり着けるのか
どれだけ砲弾を撃ち合えば終わるのか
友よ、その答えは風に吹かれている
答えは風に吹かれている

(written by Bob Dylan)

詩的で抽象的なイメージと、「砲弾」のようなドキッとする現実的な言葉が混ざり、哲学的な問いかけと現実的な社会への問いかけが混在したものになっている。
その答えが風に吹かれて舞っているという詩句は美しいが、ヒラヒラと風の中に舞っている大事なそれを人々は掴むことができずにあがいているというイメージはまた、皮肉っぽくもあり、虚無的な印象でもある。

まだ少年の面影が残るたった21歳の若者が書いたものとは思えないほど、いろいろな想いと深い思索を喚起させる歌だ。
また、無垢な青年らしい、世界に対して「理解に苦しむ」問いかけは、多くの人が共感しやすい問いかけでもある。

この深い歌詞の世界に、それまで女の子とダンスやドライヴすることを能天気に歌っていたロックンロール・バンドにも影響を与えた。ロックンロールがただのダンス・ミュージックから、現代を生きる若者の心情を代弁したり、新しい価値観を歌うようになり「ロック」へと進化したのは、この歌をはじめとするボブ・ディランの影響が大きい。

ただしその後、この曲が反戦や平和運動のテーマ曲みたいに地球上のあらゆる場所で勝手に使われまくったことに対して、ディランはどんな気分だったのだろう、と思わざるを得ない。

「反戦」や「平和」は、それ自体は正しいことだとしても、それを旗印とする運動や団体のすべてが無垢で良心的な目的や手段で行われているとは限らない。決して誇らしい気分ではなかったと思う。

すごく美しく力強い歌だし、だれもが好きになるのはよくわかるけど、音楽的な意義とは離れたところで「歌」が正義のシンボルのように利用され出すと、あまり共感する気分にはわたしはならない。ボブ・ディランやジョン・レノンを歌うことで、活動を手っ取り早く正当化しているようにも思えたものだ。

さすがに60年も経った今では、そんなことはないだろうが、活動家にはジジイやババアも多く生き残っているようなので、まだまだ油断はならない。

↓ 全米2位の大ヒットとなったピーター・ポール&マリーのカバー・バージョン。

(Goro)

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