名盤100選 85 ジョニ・ミッチェル『ブルー』(1971)

ブルー


ジョニ・ミッチェルはカナダの出身だが、ニューヨークに移って1968年にデビューしている、女性シンガーソングライターの草分け的存在のひとりだ。現在67歳であるが、今も現役で活動している。4年前に出したアルバムは、チャートの14位まで上がっている。

初めてこの『ブルー』を聴いたとき、その迫力と緊張感に圧倒された。
まるで中学校の音楽教師が場違いなほどの真剣勝負でギターをかき鳴らし、美しいファルセットで朗々と歌っているかのようだった。

この時代はまだアコギやピアノを主体としたフォーク的なサウンドであるが、女性的な可愛いらしさやセクシーさを強調することもなく、かといって男勝りな「強さ」を強調するわけでもなく、ましてポピュラーミュージックならではの華やかさや「チャラい」要素もない、地味というのとはまた違うのだけれど、とにかくエンタテインメントらしい演出要素の一切ない、ただただ生々しい、むき出しの「音楽」である。なんだか、ポピュラーミュージックというよりはバッハやシューベルトのような「純粋音楽」に近いような気さえする。

ザ・バンドの解散コンサートを記録した映画『ラストワルツ』にも出演しているが、ゲストのひとりとしてコンサートに登場したニール・ヤングと「ヘルプレス」を一緒に歌った姿が忘れられない。
ニール・ヤングは当時、山ごもりのような生活をしていて、何週間も風呂に入っていなくてものすごい悪臭を放っている状態でステージに現れ、出演者たちの顰蹙を買ったらしいのだが、同じカナダ出身であるニールを支えるように寄り添って歌う姿がほんとうに美しかった。

ジョニ・ミッチェルはその後の70年代後半からはフォークのスタイルに飽き足らず、ジャズ的なサウンドを取り入れるなど、スタイルにとらわれないオリジナリティーを追及するサウンドクリエイターとなっていく。
音楽的な評価はもうこれ以上はないというほど高く評価され、いまだにグラミー賞の常連にもなっているが、日本ではいわゆる「ブレイク」したことはないように思う。

失恋したときに聴くとか、明日への充電のために聴くとか、萌えたいときに聴くとか、そういう類の音楽ではないけれど、まあとにかく真面目な音楽、そして魂を揺さぶるような音楽を聴きたいときは、ぜひ。

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