歯車が狂い始めた80年代の幕開け【ストーンズの60年を聴き倒す】#48

EMOTIONAL RESCUE

『エモーショナル・レスキュー』(1980)

“Emotional Rescue” (1980)
The Rolling Stones

前作から2年ぶりとなったアルバム『エモーショナル・レスキュー』は、1980年6月に発売された。

2年ぶりと間が少し長く空いたのは、前回の記事でも書いたが、『女たち』に「法的な問題で」収録できなかった「クロディーヌ」を今度こそと本作へねじ込もうとしたものの、アトランティック・レコードと揉めたために、半年も遅れることになったのだった。そして結果的には今回もまた収録されず、結局お蔵入りとなった。

ミックが「ほとんどが『女たち』の余り物だった」とも発言しているが、音楽的にも確かに本作は『女たち』の延長線上にあると言えるだろう。

SIDE A

  1. ダンス – Dance (Pt. 1)
  2. サマー・ロマンス – Summer Romance
  3. センド・イット・トゥ・ミー – Send It to Me
  4. レット・ミー・ゴー – Let Me Go
  5. 悲しきインディアン・ガール – Indian Girl

SIDE B

  1. ボーイズ・ゴー – Where the Boys Go
  2. 孤独の中に – Down in the Hole
  3. エモーショナル・レスキュー – Emotional Rescue
  4. 氷のように – She’s So Cold
  5. オール・アバウト・ユー – All About You

A1とB3はディスコ・ビートのダンス・ナンバー、A2とA4とB1はスピード感のあるロックンロール、B3はレゲエ、B2はブルース。そしてラストはキースの歌で締めくくられる。

あー、久しぶりにあんまり好きじゃないアルバムの登場だな。

このアルバムを好きだという人も知っているし、絶賛している評論家がいることも知っているけれども、わたしはどちらかというとあまり好きではないアルバムなのだ。ラモーンズみたいにどこまでも突っ走るような「レット・ミー・ゴー」と、濃厚なR&Bの「孤独の中に」は嫌いではないけれども、他はあんまりピンとこない。音質もなんだかシケた感じだ。

アルバムからのシングルは「エモーショナル・レスキュー」(全米3位・全英9位)と「氷のように」(全米26位・全英33位)で、わたしはどちらも、どこがいいのかわからない。下のPVからも伝わってくる、ミックの趣味に付き合わされて苦笑いするしかないキースの気持ちがわかるような気がする。

80年代に突入すると、ミックとキースの仲は険悪になっていったが、このアルバムの制作過程あたりからそれは始まったという。

まず2人の音楽的嗜好の違いが大きくなっていったというが、それはそうだろう。常に新しい音楽に敏感で積極的に取り入れようとするミックと、新しい音楽にほとんど興味を示さないキースでは、そうなるのは当然の成り行きだ。

また、ヘロイン中毒、逮捕、裁判と、キースが使い物にならなくなっていった間に、ミックはバンドとビジネスに関するすべての実権を掌握していた。
長かった裁判も終結し、晴れて自由の身となり、ヘロインも断ってクリーンになったキースは、ミックが復帰を大喜びで迎えてくれるものと思っていたが、それどころかもはやキースには発言権さえなくなっているような状況に深く傷ついたという。自伝には以下のように書かれている。

「抜け出してきたぜ、ミック。どうにかこうにか」どうも俺は、ミックが大歓迎してくれるのを期待していたらしい。ほんとによかったな、相棒、みたいに。
 ところが、返ってきたのはこんな言葉だ。「これは俺が決める」。(中略)
 このころのミックの口癖で今でも耳にこびりついているのは、「あー、黙ってろ、キース」ってやつだ。よく使ってた。ミーティングのときも、所かまわず、何回も。俺がアイデアを運んでくる前から、「あー、黙ってろ、キース。ばか言うな」だ。あいつは自分がそう言ってることさえわかっていなかった。まったく、失礼もほどほどにしろだ。長い付きあいだから、俺にそんなまねをしても無事ですんでるんだ。とはいっても、あれは傷つくぜ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

キースの、幼馴染の相棒ミックへの変わらぬ信頼や想いがよくわかるが、しかしバンドの活動を著しく停滞させ、存続さえ危ぶまれるほどの大迷惑をかけておいて、復帰したら「大歓迎してくれるのを期待していた」と思っていたというのは、やはり甘すぎるだろうと言わざるを得ない。普通の会社員ならとっくにクビだ。

一方、キースが復帰したと思ったら、今度はロニーが麻薬に溺れ、予定されていたツアーからロニーを外そうという話さえ出たほどだった。

ストーンズにとって80年代の幕開けは、万事快調と呼べるものでは到底なかったのだ。

(Goro)

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