No.239 バッドフィンガー/ウィズアウト・ユー (1970)

No Dice
≪オールタイム・グレイテスト・ソング 500≫ その239
Badfinger – Without You

バッドフィンガーほど不幸なバンドもいない。
いやもう不幸を通り越してこれは悲劇だ。

ビートルズが設立したレコード・レーベル、アップルに所属したところまでは彼らも幸運をつかんだかのように思えるのだけど、そのアップルのビジネス上の問題で、彼らのデビュー・アルバムは英米では発売されない(日本とイタリアでは発売された)といういきなりのつまずきから始まった。

アップルからワーナーへ移籍すると、今度はいじわるなアップルの妨害を受けたり、ヒット曲をいくつか出すものの悪徳マネージャーに食い物にされてまともな収入が得られず、さらにはその悪徳マネージャーのせいでワーナーからも訴訟が起こされ、作品がすべて店頭から引き上げられるという事態にまで至ったのである。

バンド内も不和になってついには分裂し、ふたつのバンドがそれぞれバッドフィンガーを名乗って活動したり、さらにそのバンド内でもメンバー同士が訴訟を起こすなど、つねになにかしらトラブっているバンドだったのだ。

地味ながら良い音楽を書いていて、現在ではパワーポップの祖とも呼ばれてリスペクトされているバンドなのに、だ。

また、この「ウィズアウト・ユー」がシングルカットされることもなく、ニルソンやマライア・キャリーのカバーで特大ヒットとなり、この世界的に知られた名曲がバッドフィンガーの曲だということをほとんどの人が知らないというのもまた報われない話だ。

この曲を書いたのはギターのピートと、ベースのトムだ。
ニルソンのカバーで大ヒットしたにも関わらず、しかし彼らには印税が入ってこなかった。

ピートは1975年にマネージャーに対する恨みを綴った遺書を残して自殺した。

そしてトムは、ピートが自殺したショックから立ち直れずに鬱状態になり、1983年、「ウィズアウト・ユー」の印税の取り分についてメンバーのジョーイと電話で激しく言い争った翌朝に、自殺した。

曲を書いた2人ともが若くして自殺するなんてあまり聞いたことも無いが、だからと言ってこの曲を〈呪われた曲〉みたいに思ってほしくはない。
この曲はただただ〈輝かしい名曲〉以外のなにものでもないのである。

ニルソンのバージョンはたしかに素晴らしい。
あるいはマライアのバージョンで知ったという人もきっと多いだろう。

でもこの輝かしい名曲は、実はバッドフィンガーというロックバンドの歌なんだと言うことを、少しでも多くの人に知ってもらえたら、嬉しいです。