ブルース・スプリングスティーン/ウエスタン・スターズ(2019)

ウエスタン・スターズ (通常盤) (特典なし)

【21世紀ロックの快楽】
Bruce Springsteen – Western Stars

昨日発売の、ブルース・スプリングスティーン通算19作目のアルバム『ウエスタン・スターズ』のタイトル曲だ。

このアルバムは素晴らしい。
ノスタルジックな世界観は文学的で生き生きとし、アコースティック楽器とオーケストラの組み合わせによるサウンドは柔らかく、壮麗な響きだ。
熱過ぎず、枯れ過ぎない、それでいて新鮮に響くアレンジは、スプリングスティーン史上最もちょうど良い、わたしの耳が喜んでやまない絶妙なサウンドだ。

そのうえに、心を掴む情感豊かなメロディーが溢れ出てくる。
スプリングスティーンの声も、若い頃より力が抜けて逆に聴きやすくなり、よく沁みる。
それぞれの歌の主人公たちの孤独な旅路が、広大なアメリカを想起させる描写と共に歌われ、そのサウンドは「60~70年代サザン・カリフォルニア・ポップ・サウンドにインスパイアされた」そうだ。

この曲では、西部の風景やそこで出会う人々が、時間が止まっているかのようにノスタルジックに描かれる。
「その昔おれは、ジョン・ウェインにやられた」、そして「カウボーイに乾杯、旋風の中を駆る馬乗り達に」と歌われ、「今夜は西の星が再び明るく輝いている」と何度も繰り返しリフレインされる。

アメリカ西部の満天の星空、砂漠や渓谷、様々な人生を生きてきた人々が集まるにぎやかな酒場、そして古き良きアメリカ映画の西部劇のスターたちのイメージが想起される、そんな歌だ。

このアルバムはアメリカでまた売れまくるだろう。
願わくば現在のロックの流れに影響を与え、2020年代ロックはこのアルバムのように、原点に戻った豊かなメロディーを持つ、新しい「歌」が生まれてくる時代になってほしいと思う。