No.472 ブルース・スプリングスティーン/ネブラスカ (1982)

ネブラスカ(REMASTER)
≪オールタイム・グレイテスト・ソング 500≫ その472
Bruce Springsteen – Nebraska

「明日なき暴走」や「ハングリー・ハート」のような華やかなヒット曲ももちろん名曲に違いないが、それとはまたべつの、スプリングスティーンにはロックの最深部へ到達するような、深い闇の部分がある。
もしかするとそれが彼の神髄なのかもしれない。

16歳のとき、わたしが初めて聴いたスプリングスティーンのアルバムが、『ネブラスカ』だった。
わたしはこの、スプリングスティーンが宅録で制作したアルバムの底知れぬ暗さや、異様な世界観に衝撃を受けた。

当時は、これはほんとに正規のレコードなんだろうか、ちゃんとした売り物なんだろうか?と思ったほど、エンターティメント性ゼロの、謎の自主製作盤みたいに思えたものだった。

後に『明日なき暴走』や『ザ・リバー』『ボーン・イン・ザ・USA』などを聴いて、最も好きなアーティストのひとりになったが、しかしそれもわたしには『ネブラスカ』をつくったアーティストの世を忍ぶ商業用のエンターテイナーの側面であって、そもそも彼は『ネブラスカ』の人なのだ、という認識がどうしても抜けない。

このアルバムは、アメリカの田舎町の閉塞感や挫折、社会の底辺で生き、破滅していった人々のことを歌っている。
この曲はそのアルバムのタイトル曲だ。

バトンを回しながら
彼女は庭の芝生に立っていた
おれと彼女はドライヴに出かけ
10人の関係のない人間を殺した

ネブラスカのリンカーンの町から
ワイオミングの不毛地帯まで
41口径の先を切り詰めたショットガンを持ち
行く手に現れるすべての者を殺した
(written by Bruce Springsteen)

この歌詞は実際に起こった事件を基に書かれている。実話だ。
スプリングスティーンは、この悲惨な事件に怒りを表したり、嘆いたりするような第三者の客観的な立場でなく、殺人者の側からの視点で歌っている。そのせいで批判も浴びた。
なぜそうしたのかはわからないけど、そうでなければこの歌の意義も、胸をえぐるようなリアリティも半減する気はする。

道路を歩いている蟻の列を知らずに踏みつぶしてしまうのと同じように、神罰でも必然でも運命でもなく、この世にはなんの意味も無い悲劇が日々起こっているのである。

やつらは俺が生きるに値しないと言い
俺の魂は地獄に投げ込まれると言った
やつらはなぜ俺がこんなことをしたのか知りたがった
この世には、理由もないただの卑劣な行為というものもあるのさ
(written by Bruce Springsteen)

わたしは、他の項でもちょくちょく書いてるように、田舎町に漂う閉塞感や挫折、漠然とした不安や諦念の中で生きていく名もなき人々、危うい均衡をついに崩して破滅していく人々のことを描いた映画や文学にものすごく魅かれてしまう傾向がある。わたしも彼らと同じ、名もなき哀しき人々のひとりであることを共感するからだろう。
その最初のきっかけがこのアルバムだったのかもしれない。

わたしはスプリングスティーンのアルバムではたぶんこれをダントツで一番多く聴いている。
そして年を重ねてますますこのアルバムが好きになった。

記事を書いた人(Goro)

愛知県在住。中学卒業後、無知蒙昧のまま社会にさ迷い出て、底辺職を転々した後、地元の映画館に拾われる。映画館に10年勤めた後、レンタルビデオチェーンのバイヤーを20年勤め、現在は再び底辺職で肉体労働の日々に返り咲く。心に平安が訪れている。生活に不満はなし。音楽にはいろいろと救われている。「映画は映画館で観なきゃダメ派」ではない。

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コメント

  1. r-blues より:

    同じく…
    “14歳のとき、わたしが初めて聴いたスプリングスティーンのアルバムが、『ネブラスカ』でした。”

    さらに言うなら、”Mansion on the hill”の弾き語り譜面?が、スプリングスティーンとの出会いdeath?
    聞いた事もない曲をしばらく練習して弾き語ってました?