名盤100選 25 オーティス・レディング『ヴェリー・ベスト・オブ・オーティス・レディング』

ザ・ベリー・ベスト・オブ・オーティス・レディング<ヨウガクベスト1300 SHM-CD>

オーティスをちゃんとまとめて聴いたのは10年ぐらい前のことだと思う。
ロックがやんなった頃だった。

90年代後半、イギリスはブリット・ポップとやらがのしてきて、あれがわたしはヤだった。
小っちゃいわおまえらは、とわたしは思っていた。
小粒で、小賢しくて、どれもこれも似たり寄ったりで、豆かおまえらは、とわたしは思っていた。
アメリカはと言えば、デジ・ロックやらヘヴィ・ロックやらミクスチャーとやらで、ガッキンガッキンのきんにくんみたいなのが飛んだり跳ねたりしていて、プロレスかおまえらは、とわたしは思っていた。

そうやって音楽のシーンはどんどん変わっていくので、たいていの人は自分の好みだったシーンが終わると同時に聴くものがなくなって、過去への旅に出かける。わたしにとってはこのときがそうだった。1998年頃のことである。
わたしはタイム・マシンに乗り込んで、とりあえずロバート・ジョンソンを探しに行った。1930年代まで戻ったのである。
その後1950年代のシカゴ・ブルースにたどりつき、そして60年代のR&B、70年代のソウル/ファンクの世界をさまよった。
完全に差別的ではあるが、肌の白い人よりは肌の黒い人々の音楽に信頼を寄せるようになっていた。

その探検の過程で、最も気に入って、一気にアルバムを買い集めて繰り返し聴いたのがオーティス・レディングだった。仕事の帰りに植田のディスク・ステーションで買った。わたしはどのCDをどこで買ったということをけっこう覚えている。
べつに自慢にもならないが。
いや、なるかな。
まあ、ならないだろう。

ほんとのことを言うとオーティスの声はそれほど好きなほうではない。あの粘りつくような歌い方もそれほど好きなほうではない。
わたしが最初に気に入ったのは、そのサウンドだった。
わたしはこの名前も知らないギタリストとベーシストとドラマーとホーンの人たちの一風変わったサウンドが、バランスがとても気に入った。
暗闇の中で、重量感あふれるベースが振動して、線の細いギターが線香花火の炎のようにキラキラと音を立てる。
ドラムはどこか見えない場所から撫でるように優しいリズムを刻み、少し眠たげな馬のようにホーンがいななく。
バラードを歌うオーティスは闇の中でずっとなにかを探すように、手探りしながらさまよっている。

RCサクセションの忌野清志郎がオーティス・レディングをリスペクトするあまり、オーティス(のイメージ)にそっくりな曲を何曲か書いている。中でも最高傑作は「Sweet Soul Music」だろう。この曲ではエンディングでフェード・アウトしながら、オーティスの死の3日前に録音された名曲「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」も歌われる。

泉谷しげるがオーティスを聴いていたかどうかは知らないが、泉谷の3rdアルバム冒頭の「つなひき」はオーティスの2ndアルバム冒頭の「That’s How Strong My Love Is」になんとなく似ている。

オーティス・レディングは1962年、21歳でレコード・デビューしている。
当時のR&Bに、そしてローリング・ストーンズを始めロック界に大きな影響を与え、絶頂期の1967年、バンドのメンバーとともに乗った自家用飛行機が湖に墜落し、26歳で急逝した。