名盤100選 35 アーニー・グレアム『アーニー・グレアム』(1971)

アーニー・グレアム(紙ジャケット仕様)

アーニー・グレアムはアイルランド出身のシンガー・ソング・ライターで、1971年にこのアルバムを発表した。
彼が発売できたレコードは、8曲入りのこのアルバムと、その7年後に出したシングル盤のみで、全部で10曲がレコード化されただけである。
このブログで取り上げるアーティストの中で最も無名のアーティストに違いない。

それだけのレコードしか出せなかったのは、単純に売れなかったからだ。
わたしがこのアルバムを聴いたのは、本当に偶然のことである。
このアルバムは2002年に、紙ジャケシリーズとして、1000枚のみの国内限定版で初CD化された。
わたしは仕事で、毎月発売されるCDを隈なく調べていたのだが、この名前も知らないアーティストのアルバムが妙に気になった。ほんとうになんとなくなのだが、このアルバムはきっと素晴らしいに違いない、とわたしの鼻が教えたのである。
わたしは当時めったにCDを買わなかったのだが、このCDはネットで予約して買ったのだ。予約して買ったCDなんて、後にも先にもこのCDだけである。

聴いてみてあまりの素晴らしさに驚いた。ほらやっぱりそうだろ、とわたしの鼻が得意げに言っていた。
わたしは1回聴いただけで好きになり、なぜこんな素晴らしいアーティストがこんなに無名なのだろうと理解に苦しんだ。いやたとえ売れないにしても、なぜもっと評価されないのかわからない。
わたしはこれまで名盤ガイドの本を山ほど読んできたが、このアルバムを取り上げたものをお目にかかったことがない。

アーニー・グラハムは初期パブ・ロックの一味である。このアルバムのバック・バンドにはパブ・ロック界の伝説的バンド、ブリンズレー・シュウォーツやヘルプ・ユアセルフといったバンドが参加している。
レイドバック系のフォークだが、独特の浮遊感があるサウンドと美しいメロディーは、生活感が希薄で、彼岸の世界に渡るぎりぎりの場所で鳴り渡っているかのようだ。
何度聴いても飽きない。わたしがこの数年でもっとも繰り返し聴いたアルバムである。わたしはこのアルバムを聴くと心が安らぐ。

どんなに良い音楽を書いても売れない人もいる。
どれほどくだらない音楽でも、売れるときは売れる。
音楽の世界は残酷な世界だ。どれほど努力したかとか、どれほど才能があるかとかは関係ない。ギャンブルとあまり変わらない程度の、運が支配する世界である。でもその世界に人生をかけ、すべてを捧げる多くの人々がいる。

アーニー・グラハムはデビュー・アルバムから7年後の78年に、シングル盤「ロミオ・アンド・ザ・ロンリー・ガール」を発売した。
もちろんこのシングルもまったく売れなかった。
このシングルが彼の最後のレコードとなり、彼は音楽界から引退してイギリスの国鉄に就職し、オリエント急行の車掌を務め、2001年にロンドンで死んだ。54歳だった。
病死ということだが、詳細はわからない。たかだか国鉄職員の死因の詳細などが大きく取り上げられるはずもないのである。

なのにわたしにとっては、世界中の人が知っている有名アーティストや名高い名盤の数々を凌駕する、至高のアルバムのひとつである。

コメント

  1. ゴロー より:

    なるほど
    いや迂闊にもフェイクアニのコメントに深く納得してしまった。なるほど。

    しかしこのジャケがいいなんて、なかなか通ですな。

    実はこのアルバムの音源をHOT DOG雄介氏のメモリー・スティックにこっそり入れておいた。感想お待ちしております。

    さて、みなさんには申し訳ないが、ここからあと3回ほどあまり有名じゃないアーティストが続く予定です。
    誰も読まなくなるのではないかと心細い気持ちで書いてるのでせめてフェイク・アニだけでも毎回なんとかコメント書いてくださいな。

  2. フェイク・アニ より:

    ジャケがいいねぇ
    「売る」能力と「創る」能力は違うのだと僕は思う。商人と職人の違い、目指したものが違うのだ。稀に両方できる人もいるが、そういう人の多くは一般生活に向かない。
    また、「運」こそが「才能」なんだと思う。生まれたときからギターが弾ける奴や、計算が速い奴はいないだろう。どの時点で、どうやって「出会うか」、そして「継続できる環境か」という運だけではないだろうか?
    大人になれば、というか子供の頃からこんなことはなんとなく解かっているのに、それでもイバラの道を選ぶのは「若さ」なのか、それこそ「魔法」なのか。

    それにしてもジャケがいいねぇ。興味津々です。