【きょうの余談】わたし、カントリーの味方です。

オールモスト・ブルー

今回、エルヴィス・コステロの記事をいくつか書くために、彼の1stアルバムからあらためて順番に聴き直していたのだけれど、今回初めて聴いた6枚目の『オールモスト・ブルー(Almost Blue)』まで来たところで停まってしまい、先へ進めなくなってしまった。気に入ってしまって、何度もこればっかりリピートしているからだ。

『オールモスト・ブルー』は、カントリー・ソングのカバー曲のみで構成されたアルバムだ。それまでの5枚のアルバムはすべて、コステロを世に出した兄貴分のニック・ロウのプロデュースだったが、その頼れる兄貴の元から巣立って初めて制作したアルバムがこのカントリー・アルバムということになる。
プロデュースはジョージ・ジョーンズやタミー・ワイネットのプロデューサーで、名曲「スタンド・バイ・ユア・マン」を書いたりもしている、ナッシュヴィルの重鎮、ビリー・シェリルだ。

1981年という、イギリスではニュー・ウェイヴの嵐が吹き荒れ、そのトップランナーの1人として人気を博していたコステロが、カントリーのみのアルバムをリリースするというのは相当勇気のいる大博打だったろうと思う。しかし結果は全英7位と、前作よりも売れて、成功作となった。

コステロは「ブルーな精神状態だったので、そういう曲を集めていたら、たまたまカントリーばかりになった」と言っているが、普通ならそういうときはブルースに行きそうなものだけど、カントリーに行ってしまうというのは、きっと普段からカントリーによく親しんでいたのだろうと思う。

オープニングはハンク・ウィリアムスのカッコいいカントリー・ロック・バージョンから始まり、ジョージ・ジョーンズ、マール・ハガードなどが並ぶ。ラストのグラム・パーソンズのカバーは、シンプルなアレンジながら、なんだか泣けてくるぐらい美しいカバーになっている。

このオリジナルLPには当初「注意! このアルバムはカントリー&ウエスタンが含まれています。了見の狭い人は拒否反応を起こすかもしれません」と書かれたステッカーが貼ってあったそうだ。コステロらしい皮肉なジョークだ。

ロック・ミュージックはそもそも、黒人のブルースと白人のカントリーを融合させて出来た音楽だったのだけれど、ロック・ファンはどういうわけかブルースと言えばなんでもかんでも持ち上げる割に、カントリーとはちょっと距離を置こうとする傾向があるのはイギリスも日本も同じようなものなのだろう。

特に日本では「アメリカでのカントリーって、日本で言えば演歌みたいなもの」という間違った認識が流布しているせいもあるように思う。
アメリカのカントリーは、昭和40年代に作られた演歌みたいな伝統もないヨナ抜きの狭いジャンルのものではない。
それを言うなら「アメリカでのカントリーって、日本で言えば歌謡曲みたいなもの」である。昔ながらのスタイルのものもあればロック風なものもあり、ダンス・ミュージック風のものもある。アコースティックもエレクトリックも打ち込みもある、さまざまなスタイルを包含する国民的音楽なのだ。

かく言うわたしも若い頃はそんな「了見の狭い人」の典型だったけれども、40歳を過ぎてジョニー・キャッシュを聴いたのをきっかけに、カントリーも聴くようになった。

人生のちょうど半分を過ぎて「ロックももう聴くものがなくなってきたなあ」などと勝手に思い込んでいた頃のことだったので、カントリーの世界を見つけて「うわっ、まだ半分もあるじゃん!」と思って喜んだものだった。
カントリーを聴いていないということは、まだロックのルーツとなった音楽の半分を聴いていないということなのだ。

ローリング・ストーンズやビートルズも、ブルースやR&Bだけでなくカントリーの影響も受けていて、カントリー・スタイルの名曲も数々あるということは一般的にはあまり知られていないようだ。

そしてここまで取り上げて来たイギリスのパブ・ロック三兄弟、長男デイヴ・エドモンズ、次男ニック・ロウ、三男エルヴィス・コステロも、共にカントリーに深く影響を受けている。
余談ではあるけど、ニック・ロウなんて、カントリー歌手のカーリーン・カーターと結婚して、ジョニー・キャッシュの義理の息子になったこともあったぐらいだ(後に離婚してしまったけれども)。

コステロの『オールモスト・ブルー』は、ロック・ファンにも楽しめるものになっていると思うので、ロックからカントリーへの入り口のひとつとして聴いてみるのもアリだと思う。

↓ オープニングを飾る、ハンク・ウィリアムスのカバー。カッコええ。

↓ ハンク・ウィリアムスのオリジナル。

↓ アルバムのラストを飾る、グラム・パーソンズのカバー。沁みる。

↓ グラム・パーソンズのオリジナル。

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