名盤100選 75 ジョニー・キャッシュ『エッセンシャル』(2002)

エッセンシャル・ジョニー・キャッシュ
どういうわけか、この夏はずっとジョニー・キャッシュばかり聴いている。

このアルバムは数年前から聴いてきたのだけど、初めは半年に1回ぐらいしか聴かなかったのに、無意識のうちにローテーションが狭まってきて、今年に入ってからは月に1度、それが週に1度になり、中毒症状を自覚し始めのだ。

そして他のアルバム、57年のファースト『Johnny Cash with His Hot and Blue Guitar』や68年の『アット・フォルサム・プリズン』、恋人時代のジューンとのデュエット曲を集めた67年の『キャリン・オン』、などもヘヴィ・ローテーションに加わって、通勤の行き帰りなどに今やほとんど毎日、ジョニー・キャッシュを聴いている状態だ。

ジョニー・キャッシュは一応のジャンル分けで言うとカントリー歌手と言うことになるが、しかし彼の音楽はそのように単純にくくられるれるものではないと思う。
現在、国内盤で唯一現役のベスト盤であるこの『エッセンシャル』のアマゾンでの商品説明欄には、「ロックンロールの反逆性とフォークの自伝的要素、そしてカントリーの悲哀とが共存した偉大なアーティスト」と書かれている。
まさにその通りだ。うまいこと言うなあ、と感心する。
その唯一無比の個性は音楽にそのまま反映され、どのジャンルとも言えない、まさに「ジョニー・キャッシュの音楽」という他なく、それこそが彼の最大の魅力である。

その低音の、深く響く独特の声は、たとえ古い録音のものでも今まさに目の前で歌われているようにリアルに胸に響く。本物の男が、本当のことを包み隠さず歌っている、そんな説得力に満ちた歌だ。

そしてその声が絶妙のサウンドに共鳴して、奇跡のように素晴らしい音楽が出来上がる。
絶妙のサウンドとは、「テネシー2」と言うグループ名で、エレキギターとウッドベースで初期のジョニー・キャッシュを支えた2人のことである。
もともと腕の良いプロのミュージシャンというわけではなく、ジョニーの友人というか、近所の工員らしい。これに後にドラムも加わってテネシー3というグループになる。
しかしムダな音の一切無い、これ以上は無いと言えるほどシンプルな音楽だ。エレキギターやウッドベースの1音1音がこれほどまでに美しく、力強く、意味を持って響くのを感じたことはなかった。

ジョニー・キャッシュは、エルヴィス・プレスリーのレコード・デビューからおよそ8ヶ月遅れて同じサン・レコードから、1955年の3月にデビューした。
同年のヒット曲「フォルサム・プリズン・ブルース」にはこんなものすごい歌詞がある。

俺はリノで男を殺した
ただ彼の死ぬところを見たかったから

これは囚人の心の闇を描いた歌であるらしい。
エルヴィスが「ハートブレイク・ホテル」を歌っていた頃、チャック・ベリーやリトル・リチャードがデビューした頃、すでにジョニーはそんな恐るべき歌を書いていたのだ。

ジョニー・キャッシュの魅力は音楽だけにとどまらない。
このジャケット写真からもわかるように、とにかく人間としてのオーラというか、ただ者でないオーラが半端ではない。

彼の半生を描いた映画『ウォーク・ザ・ライン~君につづく道』にはその彼の人間的な魅力も存分に描かれている。
この映画は素晴らしい。
ミュージシャンを題材にした映画は山ほど見たけれど、これほど良い出来の作品は滅多に無い。わたしはついこのあいだDVDで見たばかりだが、これを映画館で観たというHOT DOGS
雄介氏が羨ましい。

映画はジョニーの歌手としての栄光や、ドラッグなどで荒れた私生活、そしてジューン・カーターとの恋愛を軸に、エルヴィスやジェリー・リーとのセットツアー、そしてもちろんフォルサム刑務所でのライヴパフォーマンスもちゃんと描かれているのが嬉しい。

ジョニー・キャッシュと後に妻になる歌手ジューン・カーター、このふたりを演じたホアキン・フェニックスとリーズ・ウィザースプーンは、すべての歌を吹き替えなしで自分たちで歌っており、これがまた素晴らしい出来だ。
バックはどんなミュージシャンが演奏してるのか知らないが、これもいかにもホンモノらしい音がしていて、まさに本物のジョニー・キャッシュ・サウンドが再現されていることに感動する。

YOU TUBEでもジョニー・キャッシュの映像をいろいろ観たが、わたしはとくに2002年の、ジョニー・キャッシュ最後の録音となったシングル、ナイン・インチ・ネイルズの”Hurt”のカヴァーのPVに感動した。

ここでは晩年の、70歳のジョニー・キャッシュが、誰にも真似できない、本物だけが持つ説得力で、白鳥の歌にふさわしい深遠な歌を歌っている。作者であるナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーは、この歌にこれほどの力があったのかと、涙を流してこのPVを観たと語っている。

ジョニー・キャッシュの風貌は昔の面影をかすかにとどめただけの、70歳の老人のそれである。しかし声は相変わらず力強く、胸に響く。
PVには70歳のジョニーが湖畔の自宅で歌う映像と、若き日のジョニーの映像とが、彼の人生を、まさに走馬灯のように見せている。
そして最後には、ジョニーを見守る72歳のジューンの姿も。わたしも泣きそうになる。
このPVはたったの4分だが、下手な映画など軽く凌駕するほどの感動を与える。

この1年後に、ジューンは73歳でこの世を去る。
そしてさらに4ヵ月後、後を追うようにジョニーも71歳でこの世を去る。

それでももちろん、音楽だけは輝きをまったく失わずに、残っている。
音楽というものは、素晴らしい。

コメント

  1. アバター ゴロー より:

    お待ちいたしておりました
    やはりジョニー・キャッシュともなると深イイ話から深どうでもイイ話まで、話はつきないでしょうねえ。
    映画の音楽は本当にクソ真面目に作りこまれていて素晴らしかったですが、やっぱりちゃんとした人がやってたんですね。そういうところをいい加減にしないのはエラいなあ。

    またガンジャで盛り上がりましょう。

  2. アバター HotDogs雄介 より:

    出た(笑)!
    ついにキャッシュさん登場ですか(笑) この暑い真夏にジョニー・キャッシュを聴いてるゴロー氏を想像したら何だか……悶えた(爆)

    エルヴィスが光ならジョニー・キャッシュは闇… 三波春夫と鶴田浩二の違いだ(笑)

    劇場で観た映画は素晴らしかったぜ!本物の楽器の音がしてた。グレッチのスネア、ツイードのトレモラックスとブロンドのテレキャスター。刑務所に向かう列車みたいなスラッピングベースのリズム。そして1$札でミュートしたマーチン(アコギ)のストローク…音楽のプロデューサーすげぇな!なんて思ってパンフ読んでたらナッシュビルのボス、T・ボーン・バーネットじゃないですか!そら本物だわ(笑)

    細かい話をするときりがないが、若きウェイロン・ジェニングス役の男は本人の息子です。フォルサム刑務所で4人になったバックバンドのリードギタリストはカール・パーキンス!
    この時会場(刑務所)にはマール・ハガードが服役しててジョニー・キャッシュの演奏を観て更正したらしい(笑)
    まだまだ全然語り尽くせないが、ジョニー・キャッシュについての深い話はガンジャで会った時にゆっくりしようぜ(´ω`)

    ゛最初の弾で彼女を撃った/あの娘が苦しむのはつらい/が、ニ発目の銃声で彼女は動かなくなった… 「ディリアズ・ゴーン」

    大好きな10曲を…

    1.Big River
    2.Ring Of Fire
    3.Cocain Blues
    4.Home Of The Blues
    5.Get Rhythm
    6.Cry Cry Cry
    7.I Walk The Line
    8.25Minutes To Go
    9.Ghost Rider In The Sky
    10.思い出のグリーングラス

    ほとんどがHotDogsで演奏した曲だな(笑)