マール・ハガード/シング・ミー・バック・ホーム(1967)

Sing Me Back Home

【カントリー・ロックの快楽】#10
Merle Haggard – Sing Me Back Home

この人の声を聴くとホッとする。
たいした理由でもないのに心がやけに焦ったり、考えなくていいことまで気に病んでしまうようなときにはこのマール・ハガードやジョニー・キャッシュの声を聴くと救われるのだ。

ロックやポップスが、この世の向こう側から、非現実の美しさを纏って聴こえてくるとしたら、マール・ハガードやジョニー・キャッシュは、ギリギリこの世の縁から聴こえてくるように思える。
この世の縁から、あたたかく、力強く聴こえてくる声と、素朴なメロディに慰められる。

マール・ハガードは20才の頃、強盗の罪でサンフランシスコの刑務所に服役していた。
そこへ慰問にやって来た、ジョニー・キャッシュの音楽を聴いたことから彼の人生が劇的に変わる。
模範囚となって翌年に釈放されると、働きながら酒場で歌い、1963年にレコード・デビューした。

「シング・ミー・バック・ホーム」は1967年に発表されたシングルだ。
この曲は、刑務所での実体験を基にした歌だという。

ハガードはあるとき、脱獄の方法を思いつき、年長の囚人に話した。
ハガードは結局実行しなかったが、年長の囚人は実行し、成功したという。
しかし、逃亡中に交通違反を犯して再び捕まり、死刑を宣告されて、刑務所に舞い戻った。

死刑囚となった年長の囚人は、ギターを弾けるハガードに「母親が子供のころに歌ってくれたゴスペル」をよくリクエストしたという。

この「シング・ミー・バック・ホーム」は、その死刑囚がどんな思いで死刑の執行を待っていたのかを想いながら書いたという。
死刑囚は故郷を想い、故郷にもう一度帰りたかっただろう、と歌っている。

動画は『ジョニー・キャッシュ・ショー』に出演したときのものだ。
この番組で初めて彼は、過去に刑務所で服役していたことを公表したという。