ジョニー・キャッシュ&ジューン・カーター/悲しきベイブ(1964)

Orange Blossom Special

【カントリー・ロックの快楽】#9
Johnny Cash & June Carter – It Ain’t Me, Babe

ボブ・ディランの曲のカバーで、ジョニーとジューンのオシドリ夫婦の初めてのシングルだ。
オリジナルは1964年のアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』で発表されているので、発売直後にカバーしていることになる。よほど気に入ったのだろう。
わたしもこの曲はディランを聴き始めた当初に、「風に吹かれて」の次ぐらいに知って、好きになった曲だった。
日本でも女性フォーク・シンガーが日本語でカバーしてたなあ。あれは誰だっけ。

「君の望んでいる男は、強くて、正直で、おまえを守ってくれて、おまえの言いなりになる男。おれはそんな男になれない。おれじゃダメなんだ」と実にイヤらしい言い方で恋人に別れを告げる歌だ。ボブ・ディランの性格の悪さがよくわかる。

その頃のボブ・ディランの恋人というのは、2ndアルバム『フリー・ホイーリン』でディランと腕を組んで歩いているスーズ・ロトロという、もう50年以上も世界中に顔バレしている女性である。

彼女はこの曲を聴くたびに「頭がおかしくなるぐらい悲しませ、苦しめられる」と言う。
キツいなあ。
別れたからといって、世界的に有名なレコード・ジャケットを今さら変えるわけにもいかないし、そうこうしているうちに時代を超えて聴き継がれちゃったりしてるからなあ。キツいなあ。
有名人と付き合っていることをカミングアウトして、写真まで公表するということは、ちょっとの間のチヤホヤ感と引きかえに、生涯にわたる苦しみを背負うリスクがあるという教訓のようなジャケットだ。
それでも、これと同じようなことをSNSでしたがる有名人カップルは今も後を絶たない。
彼女が「悲しきベイブ」にならないことを祈ろう。

オシドリ夫婦のジョニーとジューンはそんなボブ・ディランのトゲトゲ・チクチクの歌詞を、ユーモアを込めてデュエットし、シニカルで微笑ましいラブソングに変えている。
オリジナルも充分に名曲だが、このカバーもまた生まれ変わって新たな輝きを帯びたディラン・ナンバーの一例だ。

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