発売当時の邦題は『感激!偉大なるライヴ』【ストーンズの60年を聴き倒す】#44

Love You Live (Reis)

『ラヴ・ユー・ライヴ』(1977)

“Love You Live” (1977)

The Rolling Stones

ちょうど1970年発売の『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』が、当時加入したばかりのミック・テイラーのお披露目ライヴとなったように、1977年9月23日に発売されたこの『ラヴ・ユー・ライヴ』(旧邦題『感激!偉大なるライヴ』)が今度は、テイラーの後任として加入したロン・ウッドのお披露目ライヴ・アルバムとなった。

1975年夏の北米ツアー、1976年の欧州ツアー、そして1977年3月4日・5日のカナダ・トロントのクラブ、エル・モカンボにおける演奏が収録された。

そのエル・モカンボでのライヴの準備のためにカナダ入りしたキースは、いつものようにどっさり打ち込み、ホテルで泥のように眠っているところをカナダの騎馬警察隊に文字通り平手で叩き起こされた。ホテルの部屋にあったヘロインが見つかって逮捕されたのだ。しかもそれが成人男性一人分としてはあまりに多すぎる量だったため、転売目的での麻薬の違法所持として告発されることになった。1,000ドルの保釈金を支払い、一旦は釈放されたものの、その後に行われる裁判で有罪になれば長期の実刑だ。最悪の場合、終身刑の可能性もあった。ストーンズ結成以来、最大の危機だった。

結局この事件は、最後に1人の天使が現れてキースを救う奇跡のような結末になるのだが、その話は次の次の記事で書くつもりだ。

キースと親交のあったジャーナリスト、ビル・ジャーマンはその著作に以下のように書いている。

キースは77年の事件に思いを馳せて語り始めた。
「まず叩き起こされただろ。令状もなけりゃ、相当な理由もないのによお。そのうえ、俺がブツを売ろうとしてたと言いやがった。まあ、それを言った警官の1人は間もなく交通事故で死んだがな」。キースといると落ち着くのは事実だが、たまに飛び出す不気味な言葉に、僕は背筋も凍る思いをしてしまうのだった。
「判事に言われてカウンセリングを受けるようになってさ」とキースはさらに続けた。ところがそのカウンセラーってのが、俺よりよっぽど頭がおかしいんだ。彼女の愚痴をこっちが延々と聞くだけ聞いてた。コップに尿を採る時には、マーロン(キースの息子)のとすり替えてな」(『アンダー・ゼア・サム』ビル・ジャーマン著 久保田祐子訳)

当時は常時ヘロインを携行し、時折注入しなければならないほどの中毒状態で、仕事にも支障が出始めていたキースだったが、警察に逮捕され、裁判で実刑ともなれば、もはやバンドを解雇されてもおかしくはなかった。しかし、キースは以下のように語っている。

トロントでの逮捕劇のあいだ、というかいろんな逮捕劇のあいだ、ミックがものすごく親身になって文句ひとつ言わずに俺の面倒を見てくれたことは言っておかなくちゃな。あいつが色々手を打ってくれたんだ。俺を救うために骨を折って、力を寄せ集めてくれた。まるで兄弟みたいに。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

泣かせるじゃないか。

本作はそんなドタバタ状況でリリースされたライヴ・アルバムだった。

SIDE A

  1. 庶民のファンファーレ – Intro: Excerpt From ‘Fanfare for the Common Man
  2. ホンキー・トンク・ウィメン – Honky Tonk Women
  3. イフ・ユー・キャント・ロック・ミー/ひとりぼっちの世界 – If You Can’t Rock Me/Get Off of My Cloud
  4. ハッピー – Happy
  5. ホット・スタッフ – Hot Stuff
  6. スター・スター – Star Star

SIDE B

  1. ダイスをころがせ – Tumbling Dice
  2. フィンガープリント・ファイル – Fingerprint File
  3. ユー・ガッタ・ムーヴ – You Gotta Move (フレッド・マクダウェルのカバー)
  4. 無情の世界 – You Can’t Always Get What You Want

SIDE C

  1. マニッシュ・ボーイ – Mannish Boy (マディ・ウォーターズのカバー)
  2. クラッキン・アップ – Crackin’ Up (ボ・ディドリーのカバー)
  3. リトル・レッド・ルースター – Little Red Rooster (ハウリン・ウルフのカバー)
  4. アラウンド・アンド・アラウンド – Around and Around (チャック・ベリーのカバー)

SIDE D

  1. イッツ・オンリー・ロックンロール – It’s Only Rock’n Roll
  2. ブラウン・シュガー – Brown Sugar
  3. ジャンピン・ジャック・フラッシュ – Jumpin’ Jack Flash
  4. 悪魔を憐れむ歌 – Sympathy for the Devil

A・B・D面は当時のベスト的な選曲だが、C面のみ「エル・モカンボ・サイド」と題され、すべてカバー曲で占められている。トロントのエル・モカンボは、キャパ500人の小さなクラブで、ラジオの企画で当選した観客を入れて行われたそのライヴは、そのうちの何曲かを本作に収録するためのものだった。

セット・リストにはストーンズがデビュー当時にレパートリーにしていたブルースやR&Bのカバーを含み、そのうちの4曲が本作に収録された。偉大なるチェス・レコードの四天王の名曲だ。言わばストーンズのルーツの再確認とも言えるサイドで、演奏も良く、このアルバムの大きな聴きどころとなっている。

そしてロニーの加入によって、ストーンズのサウンドもまた様変わりした。
それまではキースのリズム・ギターとミック・テイラーのリード・ギターという、役割がはっきり分かれた、いかにも70年代前半のツイン・ギター・バンドという感じだったが、ロニーとキースのプレイは比較的スタイルの近い2人の荒っぽいプレイが絡み合い、溶け合うようなスタイルだ。複雑なプレイとも取れるし、自由奔放なプレイとも取れる。もしステレオで右と左に分かれていなかったら、どっちがどっちを弾いてるのかわからないほどだ。でもブライアンがいた頃もこんな感じだったので、本来のストーンズのスタイルに戻ったとも言える。

ミック・テイラーの頃は、聴いていると無意識にテイラーのギターの方に耳が持っていかれたものだが、ロニーとキースだと左右で均等ぐらいに聴ける感じだ。今もヘッドホンで本作を聴きながらこれを書いているが、右のキース、左のロンと、2つのギターに神経を集中しているとその掛け合いや絡み合いが楽しく聴ける。ギターソロを弾いても、ミック・テイラーの場合はその曲を彼の色に染めてしまうぐらい自己主張の強いソロを弾くが、ロニーのギターソロは、曲の色を変えずにササーッと駆け抜けていく感じだ。何も残らないと言えば、残らない。きっとそれで良いのだろう。

全英アルバムチャートでは3位、全米では5位となった。
アートワークはアンディ・ウォーホルが担当している。さすがのカッコ良さだ。

(Goro)

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