還暦バンドが30歳も若返ったような驚くべき傑作【ストーンズの60年を聴き倒す】#69

A Bigger Bang

『ア・ビガー・バン』(2005)

“A Bigger Bang” (2005)

The Rolling Stones

2005年8月にリリースされた本作は、前作から実に8年ぶりのオリジナル・アルバムだった。

前作『ブリッジス・トゥ・バビロン』は無理やり時代に合わせようとしたかのような、なんだか似合わぬことをやってる感もあって、逆に時代との遊離が際立って聴こえてしまう部分もあったものだ。

それから8年。平均年齢60歳という前例のないロックバンドがいったいどんなものを出してくるのかと、期待より不安の方が勝るような気持ちで恐る恐る聴いてみて、驚いた。なんだか30年も若返ったような、70年代後半ぐらいの感じの、パワフルかつ引き出しの多い、ちゃんとストーンズらしいアルバムだったのだ。

前作はミックとキースの方向性の違いから「それぞれが別々の2枚のアルバムを作っているように」作業が進められたということだったが、今回はなんとキースがミックの家に何ヶ月も泊まり込み、二人で曲を書いたという。それこそ『メインストリートのならず者』以前の時代のような真摯な音楽への向き合い方と二人の関係性が回復したようだった。そんな変化についてキースは、(ミックは)前よりずっと余裕が出てきた。大人になって分をわきまえてきたのかもしれない、チャーリーのことが大きかったんじゃないか」と言う。そして、続けて以下のように語っている。

(ミックの家に)着いた初日だったか二日目だったか、いっしょに座ってアコースティック・ギターで取り組み始めようとした。そしたらミックが言うんだ。ちきしょう、チャーリーが癌だってよ。会話が途切れ、沈黙が下りた。俺には何よりでっかい衝撃だった。ミックが言わんとしていたのは、いったん棚上げにして、チャーリーの様子を見るかってことだった。俺は少し考えてから、いや、始めよう、と言った。(中略)今止めたら、チャーリー本人が腹を立てるだろう。そんなことして、あいつが喜ぶかよ、ちきしょう。何曲か書こう。二、三曲書けたら、チャーリーにテープを送るんだ。スタートするぞってわかるように。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

本作はカバーなし。全曲ジャガー/リチャーズ作だ。

  1. ラフ・ジャスティス – Rough Justice
  2. スローで行こう – Let Me Down Slow
  3. イット・ウォント・テイク・ロング – It Won’t Take Long
  4. レイン・フォール・ダウン – Rain Fall Down
  5. ストリーツ・オブ・ラヴ – Streets of Love
  6. バック・オブ・マイ・ハンド – Back of My Hand
  7. 彼女の視線 – She Saw Me Coming
  8. ビゲスト・ミステイク – Biggest Mistake
  9. 虚しい気持ち – This Place is Empty
  10. Oh No、ノット・ユー・アゲイン – Oh No, Not You Again
  11. デンジャラス・ビューティー – Dangerous Beauty
  12. 孤独な旅人 – Laugh, I Nearly Died
  13. スウィート・ネオ・コン – Sweet Neo Con
  14. 猫とお前と – Look What the Cat Dragged in
  15. ドライヴィング・トゥー・ファスト – Driving Too Fast
  16. インフェミー – Infamy

ストーンズのアルバムというのはだいたい1曲目を聴いたらそのアルバムの出来がわかるようなものが多いけれど、このアルバムのオープニング・トラックを聴いた瞬間にこのアルバムは傑作だと確信できた。チャーリーもパワフルそのものだ。癌なんてすっかりつまみ出されたに違いない。

「ラフ・ジャスティス」は、キースが眠っている時に夢の中で思いつき、ガバッと目覚めて「おれのギターはどこだ!」と叫んだという、ちょうど40年前のあの「サティスファクション」のときとまったく同じ状況で出来たと言う。この曲や「Oh No、ノット・ユー・アゲイン」などを聴くと、もしかすると2000年以降の、ザ・ストロークスやホワイト・ストライプス、ジェットなどのロックンロール・リヴァイヴァルなどのシーンが刺激になったのかなとも思わせる。おいおい子供達、そんなことは俺たちが大昔にやったことだぜ、みたいな。パンク・ムーヴメントに対する返答となった傑作『女たち』のように。

アルバムから最初のシングルとなったバラード・ソング「ストリーツ・オブ・ラヴ」は全米15位のヒットとなった。

「レイン・フォール・ダウン」で聴かせてくれるストーンズ流ファンクも久しぶりなら、「バック・オブ・マイ・ハンド」のような”どブルース”はもっと久しぶりだ。これをミックとキースが二人で作っているところを想像すると、まさにストーンズが原点に還ったようで胸が熱くなる。キースがまるでディランかトム・ウェイツみたいに歌う「虚しい気持ち」も良い。

「ビゲスト・ミステイク」は孤独な男が、愛した女と暮らした日々を想い、「それをあたりまえに思って、せっかちな態度で不親切に行動し、家を出てきてしまった。それは人生最大の過ちだった」と歌う、グッとくる名曲だ。このアルバムでわたしがいちばん好きな曲である。

アルバムは全米3位、全英2位、オリコン総合5位と、前作を大きく上回る結果となった。

(Goro)

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