≪カントリー・ロックの快楽≫ その1
ELVIS PRESLEY – Mystery Train
エルヴィス・プレスリーは「ハートブレイク・ホテル」でRCAからメジャー・デビューする前に、メンフィスのインディーズ・レーベルであるサン・レコードからシングルを5枚出している。
この「ミステリー・トレイン」は、エルヴィスが歌いながらアコギを弾き、エコーたっぷりめのエレキギターと、スラッピン奏法のウッドベースという編成だ。ドラムはいない。
同じサン・レコードに所属した初期のジョニー・キャッシュと同じスタイルの編成だ。
この独特のグルーヴ感もこの編成だから生まれるのだろう。ドラムが入るとまた違うものになると思う。
「ザッツ・オールライト」もそうだけど、このあたりはエルヴィス・プレスリーという奇跡のグルーヴを持つ男の本領発揮だ。
サン・レコード時代のエルヴィスのレコードは、プロデューサーのサム・フィリップスの考えもあって、自由な、ユルい雰囲気で録音されたそうだ。
エルヴィスたちに自由に演奏させ、予定になかった曲を即興で演奏してみた曲がそのままシングルとして採用されたりもしたそうだ。
インディーズ・レーベルらしいエピソードだ。
この曲はまるで、カントリーのスタイルでブルースを歌ってみたかのように聴こえる。
生まれたての、ロックンロールの赤ちゃんだ。
それがこの≪カントリー・ロックの快楽≫の、記念すべき1発目にこの曲を選んだ理由である。
エルヴィスはかなり普通じゃない歌い方をしていて、最後の方では、こりゃ失敗だなと、自分でも笑ってしまっているそうだ。
でもサム・フィリップスはこれが良いと思ってそのままシングルにしたそうである。
天才が自由に歌い、完成度よりフィーリングを重視したプロデューサーがいたことが、このような奇跡の音楽を誕生させたのかもしれない。