友部正人/一本道(1973)

にんじん

【ニッポンの名曲】#22
作詞・作曲:友部正人

友部正人は1971年の中津川フォークジャンボリーなどに参加した後、72年にレコードデビューした。

この曲は2ndアルバム『にんじん』に収録された、初期の代表曲だ。
わたしにとって、この時代のフォークソングの中でも、最も好きな曲のひとつだ。

僕は今 阿佐ヶ谷の駅に立ち
電車を待っているところ
何もなかった事にしましょうと
今日も日が暮れました
あヽ中央線よ空を飛んで
あの娘の胸に突き刺され
(一本道/作詞・作曲:友部正人)

聴いた瞬間に魂が震えるような気持になった曲はいくつかあるけれど、これもそのうちのひとつだ。
あの時代だけではなく、いつの時代も共通の若者の孤独や焦燥、閉塞感や純粋すぎる希望など、溢れ出すような感情が、詩的にも、映像的にも、ダイレクトにも伝わってくる歌詞だ。

敏感な感情の塊が喉元に押しあがってくるような、泣くというより、突き刺さって来たものの重くて深いダメージに驚かされるような感覚だった。絶世の名曲である。

吉田拓郎が、「曲が良すぎてライバルとも思えなかった。『一本道』を聴いたときに『こいつになりたい』と思うほどジェラシーを感じた」と語ったほどだ。

どこへ行くのかこの一本道
西も東もわからない
行けども行けども見知らぬ街で
これが東京というものかしら
たずねてみても誰も答えちゃくれない
だから僕ももう聞かないよ

お銚子のすき間からのぞいてみると
そこには幸せがありました
幸せはホッペタを寄せあって
二人お酒を呑んでました
その時月が話しかけます
もうすぐ夜が明けますよ
(一本道/作詞・作曲:友部正人)

わたしがこの世でいちばん好きなものはたぶん、「日本語」である。
これだけは女性や芋焼酎やラーメンをも上回ってしまうほど面白く、興味深く、飽きることがない。

だからこんなにも日常的でやわらかい美しさを持つ日本語の詩が、素朴で美しいメロディに乗って耳に流れ込んでくると、気持ち良いほどぞわぞわと総毛立つ感動を覚えずにはいられないのである。