ロッド・スチュワート/この素晴らしき世界(2004)

What A Wonderful World

【カバーの快楽】
Rod Stewart – What A Wonderful World

子供の頃から音楽が好きで、もう何万曲を聴いたかわからないけれども、
その中でも十指に入るほど好きなのがこの曲だ。
メロディからも歌詞からも、喜びと哀しみの両方が伝わってくる。わずかな言葉で、この世のすべてを言い表したような、スケールの大きな曲だ。

この曲は、音楽プロデューサーのボブ・シールが、ジョージ・ダグラスという変名で、当時のベトナム戦争を嘆きながら書いたそうだ。

この歌は、「なんて素晴らしい世界なんだろう」と歌いながら、「次の世代は僕らより多くのことを学ぶだろう」とも歌う。
その真意は「この素晴らしい世界に、哀しみや苦しみが溢れている。未来の世代は、同じ過ちを繰り返さないでほしい」と願いが込められているように聴こえる。

これほどのスケール感と、真理を突いた歌を歌える声の持ち主はそうそういない。
ルイ・アームストロングはまさに適役だった。絶望的な哀しみを含みながらも、確信するような喜びに満ちた歌が、素晴らしい。20世紀の名唱のグランド・チャンピオンだとわたしは思っている。

だから、大好きな歌だけれども、他の誰が歌ってもしっくりこない歌でもあった。
でもこのロッドのバージョンは、なかなかいい線いっている。

変に崩さず、真摯な歌い方だし、若い頃からすでに老人みたいだったロッドの声は、そのしゃがれた声に刻まれた人生経験のようなものが、説得力を生む。遊びまくり、女を泣かせまくったことだって、人生経験のうちである。

ロッドは2002年に『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』という、アメリカのスタンダード・ナンバーのカバー・アルバムが大ヒットし、vol.5まで制作された。「この素晴らしき世界」が収録されたvol.3は、全米1位の大ヒットにもなった。

昨年、74歳になったロッドは、NME紙のインタビューで「引退はしないけれど、ロックンロールはやめるかもしれない。スタンダードを歌っていきたい」と語った。

「自分はいつまでも歌っていると思うけど、ずっと続けられるわけじゃないからね。こう伝える時がくるはずなんだ。『よし、もうタイトなパンツやおかしな衣装は全部片付けよう』ってね」

(NME JAPAN 2019.5.31『ロッド・スチュワート、ロックから引退するつもりであることを明かす)』)

それがいいと思う。

デビュー当時からブルースやカントリー、フォークなど、アメリカのルーツ・ミュージックをベースにした音楽を追求してきたロッドだし、なにより彼にはスタンダードに新たな命を吹き込む、人生の喜怒哀楽が刻まれた素晴らしい声があるからだ。

それにしてもロッド、良い歳のとりかたをしたものだなあ。

「ルイ・アームストロング/この素晴らしき世界 (1967)」の過去記事はこちら

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