ロッド・スチュワート/トム・トラバーツ・ブルース(1993)

リード・ヴォーカリスト

【カバーの快楽】
Rod Stewart – Tom Traubert’s Blues (Waltzing Matilda)

原曲はトム・ウェイツの1976年のアルバム『スモール・チェンジ』に収録された曲で、日本では2009年のフジテレビのドラマ『不毛地帯』のエンディングテーマにも使用された、トム・ウェイツの代表曲のひとつだ。

サビの部分で繰り返される「ウォーツィング・マチルダ(Waltzing Matilda)」という言葉は、オーストラリアの同名の古い歌から引用したもので、「毛布の束を纏ってさまよい歩く」という意味なのだそうだ。
飢えた労働者が農場主の羊を食べてしまい、残りの肉を頭陀袋に入れて「誰か一緒にウォーツィング・マチルダするやつはいないか?」と歌いかける。
彼はやがて警官に追いつめられ、沼へと飛び込んで自殺した。その後、その沼からは彼の「誰か一緒にウォーツィング・マチルダするやつはいないか?」という歌声が聞こえるようになったという、そんな哀しい歌だ。トム・ウェイツはこの一節を引用したことについて、「放浪の旅のメタファーだ」とインタビューで発言している。

ロッド・スチュワートによるカバーは1992年にシングルとしてリリースされ、全英6位のヒットとなった。
このロッドのカバーについてトム・ウェイツは「誰にもカバーできない曲を書いたつもりだったんだけどな」と語ったそうだ。

まさに英米しゃがれ声対決。
哀愁と気品を感じるロッドのしゃがれ声と、肉体労働者のどん底生活を感じるトムのしゃがれ声。どっちが好きか、好みがわかれるところだ。

この3年前にもロッドは、トム・ウェイツの「ダウンタウン・トレイン」をカバーして全英10位、全米3位と大ヒットさせている。
当時トム・ウェイツは「おかげで家の裏庭に子供用のプールを造れたよ」と話していたそうだが、この連続ヒットでもしかすると大人用のプールも造れたのかもしれない。

「トム・ウェイツ/トム・トラバーツ・ブルース」の過去記事はこちら

↓ トム・ウェイツのオリジナル。