フィル・コリンズ/恋はあせらず(1982)

Hello, I Must Be Going

【カバーの快楽】
Phil Collins – You can’t Hurry Love

フィル・コリンズはジェネシスの活動と同時進行でソロ活動にも乗り出し、5枚目のシングル、シュープリームスのカバー「恋はあせらず」でついにジェネシスでも獲ったことがない全英1位、全米10位という大ヒットをかっとばす。

この選曲はなかなかのインパクトだ。

シュープリームスの中でもとびっきりチャーミングなこの名曲を、プログレドラムおじさんが歌うというミスマッチ感がただごとではなかった。

フィル・コリンズと言えば、最初の5枚のソロ・アルバムがすべて顔面どアップのアートワークというのも、謎だった。けっして容姿で売るタイプではないはずなのだけど、その逆を行ってみたのだろうか。これもたしかになかなかのインパクトだった。

ソロもジェネシスも同時に大成功して、この当時は「世界一忙しい男」などと呼ばれた。
英米のステージを衛星中継で繋いだことで話題になった1985年のライヴ・エイドでは、ロンドンの会場で演奏した後、コンコルドでアメリカへ飛び、アメリカのステージでも演奏したこともあった。なぜそこまでするのかは謎であるが。

彼は結局これまで1億5千万枚以上のCD・レコードをセールスしていて、これもわたしには結構な謎だが、これはもう好きずきなので仕方がない。
たぶん彼の声には、多くのリスナーのハートに適度な潤いと癒しを与えるような音波みたいなものが含まれているのだと思う。

最近の話題では、2015年にフィル・コリンズのオリジナル・アルバム全8作がリマスターされて再発されると、なんと全作ジャケまで新装され、すべてオリジナルと同じ構図で現在の年老いたフィル・コリンズの写真に差し替えられたのである。こんなふうに。

Hello, I Must Be Going (2016 Remaster)

恐ろしいことをするものだ。売れたのだろうか。

フィル・コリンズという男、知れば知るほど、謎が深まるばかりである。