【きょうの余談】甲本ヒロトの金言「デジタル世代は歌詞を聴きすぎ。もっとぼんやりしてていい」

きのうフジテレビで放送された、松本人志と中居正広がMCのトーク番組に甲本ヒロトが出演し、菅田将暉を加えた4人で約30分のトークが繰り広げられた。

甲本ヒロトという人は、その詩人らしい洞察力や純粋な直感、音楽に対する深い愛ゆえか、われわれの胸に深く突き刺さることを言うものだ。彼の言葉を聞いていると、なんかわからないけど、スッキリしたり、ラクになったり、元気をもらえたりする。

とりあえず忘れないように、ここに書き留めておくことにしました。

まずは中居の「ヒロトさんにいろんなことを訊いてみたい。なにを見て、なにを聴いて育ってきたのかなあとか」の質問に。

「あのね、おんなじ世界に生きてるから、おんなじ物を見てるはずなんですよね。おんなじもの聴いてるんですよ。
でもね、面白いもんで、おんなじ所に居て同じ方向を向いてるから同じものが見えてるとは限らなくて、それはどういうことかって言うと、ピントが合ってる場所が違うの。みんな違うもの見てる。
僕はたまたま中学1年のときに、たまたまロックにビシッとピントが合ったんですよ」

「年取ると、老眼てあるんですが、僕ないんですよ。そのかわり、遠くがどんどんぼやけてくる。でもそのタイプで良かった。なんでかって言うと、僕は近くのものを見たい。遠くのものって、見えなくても大して影響ないんですよ」

中居「幼少の頃ってなにを聴いて育ってきたんですか?」の質問に。

「中学のときにラジオから流れてきた、英語の音楽だったんですよ、びっくりしたのが。
それまで僕、音楽ってそんなに好きだと思ってなかったし、どっちかっていうとカッコ悪いと思ってた。なんかお遊戯みたいで。お遊戯嫌いだったから。あんなの男がやるもんじゃない、と。
特に英語の歌なんかね。あれは在日外国人のために流してる歌で、自分には無関係だと。ピントが合うどころか、眼中になかった。
でもある日ラジオをかけて部屋に居たら、突然、涙がブワーッと出てきて、畳をかきむしりながら、号泣してたの。
意味がわかんない。おれちょっと頭おかしくなったのかって思って、原因を探したんですよ。これ? 今流れてるこの音? まさか!?って思って。
で、もう1回そんな気持ちになりたかったの。あれがたぶん『感動』だと思う。あの感じになりたいから、レコードを聴くようになったの」

中居「その曲はなんという曲だったんですか?」

「それはね、60年代のヒット曲で、マンフレッド・マンていうグループの「ドゥワ・ディディ・ディディ」って曲が流れていたんだけど、そのときはたまたまそうであって、その番組は60年代のイギリスのビート・グループの特集番組だったの。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、そういうのがブワーッと来た。これだーっ!て思って。
でも僕がそれを聴いた時代にはもう過去のもの、ずいぶん昔のものだったから、僕は昔の音楽が好きなんだなと思ってずっと聴いてたんだけど、1977年にパンク・ロックが出てきた。(満面の笑顔で)今もある! 今もあるー! やったー!と思って」

中居の「若い頃に聴いた音楽でも、年取っていろんな経験をした後に聴くとまた自分の解釈が変わってくるのが面白い」という話から。

「それはね、僕ら、マーシーもそうかもしれないけれども、歌を作った本人が、絶対こうって思ってないから。作った本人も、なんとなくバーンって出してる。僕らは投げるんですよ。そしたらパシッて捕るじゃないですか、聴く人が。そのキャッチャーミットの中に見えるものは、みんな違うんですよ。そこで完成されるから(歌は)みんなのものなんです」

中居の「音楽の聴き方や入手の仕方も変わってきましたが、今の音楽に対して思うことって何ですか?」の質問に。

「僕は若い人はみんな良いと思う。なんでかっていうと、音楽って何がいいっていう形とかないんですよ。結局なんか、やったるで!という気合とか、そんなんが一番大事だと思う。そういうのは若い人は凄いですから。
でも、アナログ世代とデジタル世代の違いを1箇所感じるのは、若い人は、歌詞を聴きすぎ。アナログの頃って、僕らは音で全部聴いてた。だから洋楽だろうがなんだろうが全部カッコよかった。なにを言ってるか、意味なんてどうでもよかった。
たとえば、ロックンロールは僕をものすごく元気にしてくれたけど、元気づけるような歌詞なんかひとつもないんだよ。関係ないんだ、そんなこと。おまえに未来はない!とか歌ってんだよ。No future for you!とか。それ聴いて、よし!きょうも学校行こう!って行ったの。
でもデジタル世代になると、それが情報としてきれいに入ってきすぎちゃって、歌詞や、文字を追いすぎてるような気がちょっとだけする。(明確になり過ぎて)ぼんやりしてないんですよね。ぼんやりしてれば、どこに焦点を合わせるかはみんな自分で選べる」

松本の「ヒロトさんのゴールというか、どこに今向かってますか? 同じ年齢の者としてすごく訊きたいです」の質問に。

「考えたことないんですけど。考えたことないのにそういう質問をしょっちゅうされるんですよ。
僕、夢って、よくわかんないですけど、取り憑かれて、なっちゃうもんなような気がするんです。それって、ひとつなような気がする。
で、僕は若い頃に取り憑かれて、バンドがやりたい!って思った。それが夢だ!って思ったの。でもいろんな人の話を聞いてると、おまえの夢はなんだって訊くと、バンドやってお金持ちになりたい、とか。バンドやって有名になりたい、とか。2つ言うんです。1個にしとけ、と。金持ちになりたいんだったら、バンドは捨てろ、と。金持ちになりたい、有名になりたいって言えよ。そのための手段としてのバンドだったら、なんでもいいじゃん。不動産の勉強してお金持ちになってもいいし、悪いことして新聞に載りゃ有名になるよ。夢ってのは手段じゃないんだよ、目的なんじゃないかって僕は思うんです。
ということで考えると、僕は十代の頃にバンドを始めた瞬間にもう、叶ってます。そして今もやってるから、ずーっと叶ってる。だからもう、ずっとこのままでいいんです」

心に刺さりまくる言葉がいくつも出てきたが、わたしにとってひとつ新たな発見だったのは、ヒロトは昔から「ドゥワ・ディディ・ディディ」を聴いたときのエピソードをよく話していて、わたしも下の記事に書いたことがあるけど、正直、なんでこの曲?って思わないこともなかったのだ。

でも今回詳しい話が聞けて、真相はちょっとだけ違うのがわかった。
要は、ブリティッシュ・ビートの特集番組を聴いていて感動したのだけど、たまたま「ドゥワ・ディディ・ディディ」が流れてるタイミングで自分が泣いてることに気づいた、ということだったのだ。

それならわかる。これで腑に落ちた。
いやべつに「ドゥワ・ディディ・ディディ」も悪くないけど、なんか、よかった。

「マンフレッド・マン/ドゥワ・ディディ・ディディ」の過去記事はこちら

(goro)