ゼム『アングリー・ヤング・ゼム』(1965)【最強ロック名盤500】#91

THE ANGRY YOUNG THEM [12 inch Analog]

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#91
Them
“The Angry Young Them” (1965)

ゼムは北アイルランドのベルファスト出身のバンドだ。1964年にシングル「ドント・スタート・クライング・ナウ」でデビューした。アイルランドから世界へと羽ばたいた、最初のロックバンドだった。

ジャケットの中心にいるフロントマンのヴァン・モリソンは、当時19歳ながらすでに、一切の妥協を許さないような頑固親父の面構えである。マイクを噛みちぎらんばかりの激しく熱いソウルフルな歌唱と、型破りで独創的なソングライティングはまさに早熟の天才だった。

本作は1965年6月に発表したゼムの1stアルバムである。
ヴァン・モリソンによるオリジナルが6曲、プロデューサーを務めたバート・バーンズとトミー・スコットによるオリジナル曲が4曲(※印)、カバーが4曲という構成になっている。カッコ内はカバー元のアーティスト。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ミスティック・アイズ
2 二人の恋の歌
3 リトル・ガール
4 ジャスト・ア・リトル・ビット(ロスコ・ゴードン)
5 アイ・ゲイヴ・マイ・ラヴ・ア・ダイアモンド ※
6 グロリア
7 ユー・ジャスト・キャント・ウィン

SIDE B

1 ゴー・オン・ホーム・ベイビー ※
2 ドント・ルック・バック(ジョン・リー・フッカー)
3 アイ・ライク・イット・ライク・ザット
4 黒い影の男 ※
5 ブライト・ライツ、ビッグ・シティー(ジミー・リード)
6 マイ・リトル・ベイビー ※
7 ルート66(ボビー・トゥループ)

ブリティッシュ・ビートへの北アイルランドからの殴り込み、といった感じだが、ブルースとガレージ・ロックを組み合わせたような、ディープで激しく、熱く、アグレッシヴな音楽性は、スタイリッシュなR&Bやロックンロールで少女たちの嬌声を浴びていたブリティッシュ・ビート勢を大いにビビらせたことだろう。

最も有名なのはA6のヴァン・モリソンのオリジナル「グロリア」だ。
1964年にリリースした2枚目のシングル「ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー」のB面に収録されていた曲だったが、後にドアーズやパティ・スミスのカバーによってさらに広く知られるようになった。

それにしても1964年でこれはかなり画期的な、シビれる曲だ。19歳にしてすでにヴァンの天才が炸裂している。

ゼムはブリティッシュ・インヴェイジョンの波に乗ってアメリカにも進出し、シングル「ヒア・カムズ・ザ・ナイト」が全米24位、「ミスティック・アイズ」が全米33位と健闘し、66年6月には3週間の米国ツアーも行った。L.A.ではデビュー前のドアーズとも共演している。

しかしその米国ツアーの最中に、マネージメントとバンドのメンバーの間で金銭をめぐる争いが勃発し、ヴァン・モリソンが脱退する。バンドは継続したが、70年初頭に活動を停止した。

↓ 多くのカバーも生まれた、ゼムの代表曲「グロリア」。

↓ 米国でシングル・カットされ、全米33位のヒットとなった「ミスティック・アイズ」。ほとんどインプロビゼーションみたいな曲だが、何やら異様なパワーが漲る熱さと勢いを感じる。

(Goro)