名盤100選 27 ザ・フー『ライヴ・アット・リーズ』(1970)

ライヴ・アット・リーズ25周年エディション

それにしても奇天烈なバンドである。『花の慶次』ではないが、ロック界に初めて登場した傾奇者(かぶきもの)みたいだ。

まず名前が変だ。
1965年という時代に、こんな奇天烈な名前では売れないだろうと考えるのが自然だ。
でも彼らは売れた。
売れさえすれば、変テコと思われていた名前が、最高にカッコいい名前に思えてくる。

彼らはインテリで、音楽的な素養も文学的な知識も備えていたので、巧みで新鮮なポップ・ソングが書けた。
彼らには社会に対する問題意識とユーモアのセンスが備わっていた。
そのうえまともな人間が誰もやらなかった変なことや凄いことを滅茶苦茶にやりまくって、ロック界に絶大な影響を及ぼした。
わたしはこのブログで繰り返し主張しているが、すべての芸術において、ユーモアのセンスのないものは二流だと思っている。
その点ザ・フーは超一流のアーティストと言える。

パンク・ロックは、その源流を遡ればザ・フーにたどり着くとわたしは思う。
彼らのデビュー・シングル「アイ・キャント・エクスプレイン」では「わかってるけどうまく言えない」と歌い、同年のシングル「マイ・ジェネレーション」ではどもりながら「年をとる前に死にたい」と歌われる。
その考え方が間違っているとか非常識であるとかはどうでもいいのだ。
大事なことは、カッコつけた理想像ではない等身大の若者のダメダメなくよくよやイライラがリアルに描かれていることである。
このリアリティこそがパンク・ロックの始まりだった。

スタジオでフィードバック・ノイズを初めて録音したのもザ・フーだそうだ。ファースト・アルバムの「マイ・ジェネレーション」「オックス」などに聴くことができる。
ステージで楽器や機材を破壊するというパフォーマンスを最初にやったのもザ・フーだろう。
TV番組「スマザーズ・ブラザース・ショー」に出演したとき、ドラムのキース・ムーンはドラムセットに火薬を仕込み、「マイ・ジェネレイション」の演奏終了時に爆破させたという。
それによってピート・タウンゼントは聴力障害を負い、ベティ・デイヴィスは気絶したという。この映像は今でもYou Tubeで見ることができる。
耳を傷めたらしいピートはちょっとキレている感じだ。

そのキース・ムーンのドラムがまた奇天烈である。
ザ・フーが日本であまり人気がないのはこの気違いじみたドラムのせいではないかと思ったことがある。

わたしが最初にザ・フーを聴いたときも、このドラムが聴きにくいなあと思った。
カチッとした日本のポップスにはありえないような、崩壊寸前のポップ・ソングだからだ。

ポップ・ソングは他の音楽に比べるとスタイルが非常に保守的で、ポストカードにクレヨンで絵を描くような、小さな枠の中でちょっとした違いをつけるようなものだ。
でもだからこそ聴きやすく、とっつきやすい。
フリースタイルを導入したらポップ・ソングは崩壊するのだ。

キース・ムーンのドラムはギリギリである。今にもドラムセットがなだれ落ちてくるその寸前に曲が終わる感じだ。
もちろん今では、このドラムでなければザ・フーではないと思っている。
キース・ムーンは1978年に薬(違法ドラッグではないらしい)の過剰摂取で死んでしまい、その後のドラマーを入れ替えたザ・フーはまったくパッとせず、なんとなくグタグダと活動を続けたが、やはり必然的に消滅していく。

ベースのジョン・エントウィッスルも奇妙なベースを弾く男だった。その佇まいがなんともカッコいい男である。
彼は2002年、ラスベガスでのショーの前日に急死した。コカインの摂取による心臓発作で、高級娼婦にフェラチオされている途中で死んだ。
それについてピート・タウンゼントは、うらやましい死に方だ、と語っている。まったく同感である。
今年はザ・フーが来日したが、残念ながらジョンもキースもいないザ・フーを見たいとは思わなかった。

ただし、ドラマーには元ストーン・ローゼスのレニにもオファーがあったそうである。
ロック界広しといえどキース・ムーンの代わりなどいるはずもないと思っていたが、たしかにレニなら面白いと思う。
それなら見てみたかった。

ザ・フーはアルバム未収録の優れたシングルも多く、そういう意味ではベスト盤も素晴らしい。初めて聴く人にはベスト盤をお薦めしたい。
ここで選んだ『ライヴ・アット・リーズ』は、代表曲がたくさん収録されているという類のものではないが、ふだんのおどけた悪ふざけがこの一瞬だけ消えて本気を丸出しにしたような、ザ・フーのアルバムの中でもズバ抜けて凄みのある名盤である。
収録曲が6曲と少なく、近年はこの完全版という長いものも発売されているが、わたしにはオリジナルの6曲だけのほうが良く思える。
この名盤は、編集の勝利でもあったのだ。

記事を書いた人(Goro)

愛知県在住。中学卒業後、無知蒙昧のまま社会にさ迷い出て、底辺職を転々した後、地元の映画館に拾われる。映画館に10年勤めた後、レンタルビデオチェーンのバイヤーを20年勤め、現在は再び底辺職で肉体労働の日々に返り咲く。心に平安が訪れている。生活に不満はなし。音楽にはいろいろと救われている。「映画は映画館で観なきゃダメ派」ではない。

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コメント

  1. ゴロー より:

    そうだったのか
    そういうわけだったのか。なら仕方がない。

    ピート・タウンゼントはどこか無表情でインテリっぽくて若ハゲでじじ臭い感じなので、それで暴れまわるとパフォーマンスというよりリアルにイカれて見えるからオモロいんだよねえ。

    本人によればキース・リチャーズの影響だとのことだが、キースはあんなことやりませんしね。

  2. フェイク・アニ より:

    ピート・タウンゼントと私
    つい先日、NHKの夜中の番組で久々にTHE WHOのライヴ映像を見ました。
    ギターを激しく床に打ち付けるは、突然ピョンピョンと異様に高くジャンプするは、風車の如く右腕をブンブン振り回すはの大活躍ピート・タウンゼント師を見て、ウチの嫁さん大爆笑!「プロレスか!」。
    いや、僕は大好きなんですよ。

    昔よんだインタヴューでピート・タウンゼントは「若者よ、リハーサルを繰り返す事によって本番の緊張感を和らげる必要は無い。本番の緊張感を楽しめば良いのだ。」という意味の事を言っていた。
    それからである、ぼくがリハーサルを真剣にやらなくなったのは。
    ありがとう、ピート師匠。