ビリー・ジョエル/アップタウン・ガール(1983)

イノセント・マン(期間生産限定盤)

【80年代ロックの快楽】
Uptown Girl

songwriter : Billy Joel

ビリー・ジョエルの9枚目のアルバム『イノセント・マン(An Innocent Man)』からのシングルで、全米3位、イギリスでも初めてのチャート1位を獲得した、大ヒットナンバー。

アルバムは、50~60年代のポップス黄金時代を思わせる明快さと、メロディが溢れ出して止まらない、個性的でキャッチーな名曲がズラリと並んだ名盤だ。

この曲はその中でも圧倒的な、最初から最後まですべてがサビみたいな、楽しめない瞬間が少しもない、凄い名曲だ。

「おれは下町の貧乏人、彼女はお金持ちのお嬢様、でもおれはあの娘を必ず射止めて見せる! だって彼女はおれみたいな情熱的な男を探してるはずだから!」と、まあ現実にはほとんど望みのないような、逆シンデレラを夢見る男の歌だ。

しかしこのPVに出てくる金持ちお嬢様とビリー・ジョエルの、哀しいほどの見た目の落差は、まさにこの歌詞にぴったりだな。


そしてこの曲を聴くと、昔の同僚を思い出す。

関西出身の元高校球児で、当時で30歳ぐらいだったかな、見た目は強面だけど内気であまり喋らず、酒も飲めないやつだった。

喋り出すと関西人らしいユーモアもあったし、優しい男だけど一度だけ、一緒に車に乗ってて、舞鶴自動車道を彼が運転中に覆面パトカーにシートベルトで停められた。
すると彼が逆ギレし、人が変わったように警官に罵詈雑言を浴びせ、説教を始めたのに驚かされた。
あれは面白かったなあ。
だいぶ年下だけれども、わたしは彼が大好きだった。

会社の忘年会で2次会のカラオケに彼を連れて行って、なんか歌ってよと促すと、彼の車にいつも置いてある唯一のCDだったアニメ『北斗の拳』のサントラから主題歌でも歌うのかと思いきや、なぜかこの「アップタウン・ガール」を野太い声で全力で歌ったので、わたしは爆笑したものだった。

でも彼はある日突然出社しなくなった。
連絡を取ろうとすると、住んでたはずのアパートは家賃を滞納して数カ月前に追い出され、別の同僚のところに居候していたことがわかった。
行ってみると、その同僚の家からも姿を消していた。
敷きっぱなしの布団や、皺だらけの衣類もそのままで、家財道具はもともと灰皿ぐらいしか無いらしい。

紙くずに紛れて、会社の保険証が見つかった。大量の紙くずは、借金の督促状だった。

聞くところによると、休みの日はいつもパチンコに行ってたらしい。それで生活費に困って借金が増えていったのか、首が回らなくなって着の身着のままで車に乗って行方をくらましたのだろうと想像できた。
直属の上司だったわたしは、そんな切羽詰まった状況なのに一度も相談されなかったことが情けなかった。

1か月後ぐらいに、関西の実家に戻ってきたと、ご両親から会社に連絡があった。その間ずっと彼は車上生活をしていたということだった。会社はもちろん、そのまま辞めた。

あれから10年ぐらいになるかな。
あいつ、どうしてるかなぁ。
できることなら、あの逃亡劇を面白おかしく聞かせてほしいな。

あ、ごめん。
「アップタウン・ガール」と全然関係ない話になっちゃった。

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