名盤100選 43 イギー・ポップ&ザ・ストゥージズ『ファン・ハウス』(1970)

ファン・ハウス

「ストゥージズ」とは「バカたち」という意味である。
自分たちであえてそんな名前をつけるほどに、彼らのバカさは際立っていたのだろう。

たしかにその音楽には知性のかけらも感じられない。
まるで『2001年宇宙の旅』の冒頭シーンに出てくる、初めて道具を使うことを覚えてハイテンションになっている猿人のようである。
雄叫びを上げ、耳をつんざくようなギターが鳴り、原始的なリズムが延々と繰り返される。
その凶暴さとエネルギーの爆発は類を見ない。
20万年前のネアンデルタール人に聴かせてもきっと気に入ってもらえるだろうという気がする。

ストゥージズはアメリカのデトロイトで結成された。
デトロイトという街はご存知の通り、自動車産業の街であり、あの連中は工場の騒音でみんな耳がおかしくなっているのだ、というのはHot Dogs 雄介氏の説である。
耳だけかな、とわたしは思ったものだが。

ストゥージズは3枚のアルバムを残している。この『ファン・ハウス』は2枚目である。
ファーストから少しだけ進化してネアンデルタール人からクロマニヨン人になった感じだが、もっと原初的なものが好みだという人にはファーストをすすめたい。
サードの『ロウ・パワー』はミックスが滅茶苦茶でちょっと聴きにくい。でも「サーチ&デストロイ」というナパーム弾のような最凶のロック・アンセムが入っている。

彼らのこのとんでもなく完成度の低い音楽もまた、ロック史のひとつの奇跡といえる。
彼らはローリング・ストーンズのようには有名になれなかったし、まともなアメリカ国民には愛されなかったが、ロック史には永久に消えない爪跡と歯型を残した。
イギリスのパンクロックからアメリカのグランジまで、ストゥージズの影響は後を絶たない。
彼らもまたロックのひとつの理想的なアイコンとして、永久にリスペクトされる存在であり続けるだろう。

ストゥージズは74年に解散した。
フロントマンであるイギー・ポップはソロで音楽活動を続け、薬物中毒などで売れない時期もあったが、90年代のグランジブームと96年のイギリス映画『トレインスポッティング』で「ラスト・フォー・ライフ」が使用されたのをきっかけに再評価されることになる。わたしはとくに90年の『ブリック・バイ・ブリック』というアルバムを非常に好み、繰り返し聴いたものだった。

ストゥージズは2003年に再結成をして、ストゥージズとしてすでに3度もフジロック・フェスティヴァルに登場もしている。
しかしストゥージズのオリジナルメンバーであったギタリスト、ロン・アシュトンが今年の1月に心筋梗塞で死んだ。
これでもうストゥージズも本当に終わりなのかもしれない。

イギー・ポップは今年で62歳になる。
彼がまだ生きていることもロック史における奇跡のひとつに数えていいと思う。

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