名盤100選 83 ティーンエイジ・ファンクラブ『ヒット大全集』(2002)

ヒット大全集
ティーンエイジ・ファンクラブを好きになったのは、91年のセカンド・アルバム『バンドワゴネスク』を聴いたときだった。
あれからはや20年、わたしには音楽好きの友人たちもいるし、会社の同僚にも趣味の合う音楽好きは何人かいるのだが、いまだに、ティーンエイジ・ファンクラブが好きという人には出会ったことがない。

それほどマイナーでもないし、そこそこ日本でも、ベスト盤が出る程度には売れたはずだし、これまでに7回も来日している親日派でもある。
聴く人が限られるような極端な種類の音楽ではなく、一度聴いただけで歌メロを覚えてしまうようなキャッチーな音楽性こそが彼らの最大の武器だ。
それでもいまいち本格的なブレイクもせずに20年も経ってしまったのは、その中途半端さに尽きると思う。

ティーンエイジ・ファンクラブはスコットランドのバンドである。
ザ・バーズのフォーク・ロックにノイジーでラフな轟音ギターサウンドを加え、ゆるいヴォーカルとゆるいギターテクニックで演奏した、要はニール・ヤングをあまり声の出ないイギリス人がゆるくやっているという、わたしにとっては最高だが、イギリス好きにもアメリカ好きにも若干敬遠される要素をもともと備えた、中途半端と取られかねないものだ。
そのうえヤツらには、ニール・ヤングが一貫して持ち続けている攻撃性や社会派的な意識の高さもない。彼らの歌詞はまるでTレックスのように、なんの主張も、意味も含んでいない。彼らには言いたいことなどなにひとつないかのようだ。

ファッションにもなんのこだわりも感じられないし、メンバーにあまりに個性がないため顔が覚えられない。わたしでもいまだに誰が誰だかわからないし、そもそもフロントマンと呼べる人物がいない。それどころかドラマー以外の3人は、曲によってギター、ベース、ヴォーカルを交代して、本来だれがどのパートなのかすらはっきりしない。
要するにロックスターの要素が皆無の、生まれつき華の無いロックおたくたちである。女性ファンがキャーキャー言うこともないだろうし、男性ファンが憧れの対象として見るということもまず無さそうだ。彼らは女性にモテるためにバンドをやってるというガツガツした感じもまったくしないし、自己満足的にガレージで遊んでるアマチュアバンドなどとなんら違いがないのである。

だからこそわたしは好きになったのだった。
ロックスター然とした言動や振る舞い、派手な衣装や、伝統芸能のようなオーバーアクションなど、音楽もリアリティを失っていき、こちらも年を重ねるごとに共感しにくくなっていくロックのなかで、そのなんのてらいもなく、なんのポーズも見せない、ある意味面白くもなんともなさそうな素人同然の同世代の若者がつくる、ただただ良い曲を作って楽しみたいだけの音楽にわたしは共感したのだった。

言いたいことがなにもない、というのもいいじゃないか。実際それが本当のところだ。
わたしたちの少し退屈な日常、少し楽しい日常、少し残念な日常、少し刺激的な日常、少し真面目な日常、そんなありふれた日常の肯定的なBGMにぴったりの音楽だ。

そんな立ち位置で彼らもいちおう後進に影響を与えたことは確かだ。
それでロック史にも名を残せばよかったのだけど、残念ながら彼らとほとんど同じテイストのヘタレバンド、ウィーザーがアメリカから出てきて大ブレイクしてしまい、彼らはその初代であるにもかかわらず、レギュラーポジションを奪われてしまったのである。
気の毒な話だが、しかしまあ少しぐらいの才能や小器用さがあったとしても、表にガッツを出さないやつなんてのはどこの会社に行こうが大成しないものなので、これも仕方がないと言える。