ビッグ・スター【名曲ベストテン】BIG STAR Greatest 10 Songs

Keep an Eye on the Sky (Spkg)

米テネシー州メンフィス出身のビッグ・スターは、売れなかったバンドだ。
1972年に地元のレーベルからデビューし、2枚のアルバムをリリースし、74年に解散した。完全に名前負けしてしまったバンドだった。

3枚目のアルバムも録音され、プロモーション用の見本盤がプレスされたものの、どこのレコード会社からも相手にされず、タイトルすら付けられないまま、お蔵入りとなってしまった。ビッグ・スターもやむなく解散した。

しかしこの3枚目が実は超名盤であったため、海賊盤が出回り、やがてイギリスで再評価されたことをきっかけに1982年になってやっと公式に発売された。
幻の3rdアルバム『サード/シスター・ラヴァーズ』は、やっぱり売れなかったものの、コアなロックファンの根強い支持が拡がり、90年代になるとオルタナティヴ・ロックのアーティストたちが影響を受けたことを公言し、ビッグ・スターのカルト人気が高まっていった。

わたしはソニック・ユースのサーストン・ムーアが10枚のフェイヴァリット・アルバムの中で挙げていたことでこのアルバムを知り、この名盤にハマった。

ビッグ・スターの作品では1st、2ndのほうを評価する人も多いらしいが、たしかにそれに比べると3rdはアレックス・チルトンのヴォーカルもなんだかヘロヘロだし、内省的で、暗くて、妙な不協和音が鳴り響く、一風変わったサウンドの実験的とも言えるアルバムだ。

1stではまだ「売れたい」という気概も見えるが、3rdではそんなものは完全に消え失せてしまい、ただただ自分の音楽の世界に沈潜している感じだ。

でも、だからこそ、わたしは3rdが圧倒的に好きだ。
清涼な空気感と張りつめた緊張感が両立し、良い意味で壊れているのも魅力だ。ヘロヘロのヴォーカルも、妙に惹きつけられる。
商業主義からも流行からもロック・シーンからも遊離したような、奇跡のように美しい唯一無比のアルバムだった。

不当なほど売れなかったせいで、逆に彼らはロック史上最もカルト的な人気バンドとなった。

チルトン本人は1992年のインタビューで「人々がビッグ・スターをもてはやすので驚いている。彼らは、ビッグ・スターがこれまでで最高のロックンロールアルバムのひとつを作ったと言ってるが、そんなことはないよ」と謙遜しているが、いや、そんなことはあるとわたしは思っている。
たしかにチルトンからしたら、自分たちの音楽は売れないという現実を受け入れて解散し、それから17年も経ってから若者たちに急にもてはやされても、キツネにつままれたような気分だったことは想像できるけれども。

アレックス・チルトンは2010年に心臓発作を起こして、59歳でこの世を去った。
彼が生んだ真摯な音楽たちは、しかしこの先もロック・クラシックとして聴き継がれるに違いない。

以下は、わたしが愛するビッグ・スターの至極の名曲ベストテンです。

第10位 セプテンバー・ガールズ(1974)
September Gurls

2ndアルバム『Radio City』収録曲で、アレックス・チルトン作。ビッグ・スターの代表曲としてよく知られ、パワー・ポップの名曲としても挙げられることが多い。バングルスなど、複数のアーティストがカバーしている。

第9位 ライフ・イズ・ホワイト(1974)
Life Is White

2ndアルバム『Radio City』収録曲。チルトンとベースのアンディ・フンメルの共作。せつないメロディと哀切なハーモニカの響きが印象的だ。

第8位 ジーザス・クライスト(1975)
Jesus Christ

3rdアルバム『Third/Sister Lovers』収録曲。3rdはカバー以外すべてチルトン作で、この曲からも彼のポップ・センスを感じる。ただし、チルトンの精神状態やコンディションはあまり良くなく、歌もヘロヘロだが、そこがまたリアルな魅力にもなっている。

第7位 ホロコースト(1975)
Holocaust

名盤3rd『Third/Sister Lovers』収録曲。「大量殺戮」のタイトル通り、暗く、重く、張りつめた緊張感の中に静かな狂気すら感じさせるが、独特の美しさを持った曲だ。

第6位 宿命の女(1975)
Femme Fatale

3rd収録の、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲の会心のカバー。ヴェルヴェッツの原曲ではニコが歌っているが、チルトンの歌唱はそれを上回る美しさだ。3rdアルバムの中のハイライトのひとつ。

「ビッグ・スター/宿命の女」の過去記事はこちら

第5位 サンキュー・フレンズ(1975)
Thank You Friends

『Third/Sister Lovers』収録曲。女声コーラスが効果的な、アルバム中でも最も明るく、キャッチーな曲だ。

第4位 ブルー・ムーン(1975)
Blue Moon

『Third/Sister Lovers』収録曲。美しいアコギの響きと、鳥肌が立つようなせつないメロディとチルトンの声に震える名曲。たった2分しかないけれども強烈に印象に残る曲だ。

第3位 サーティーン(1972)
Thirteen

1stアルバム『#1 Record』収録曲。アルバムの評価は高かったものの宣伝不足などでまったく売れず、そのせいで初期メンバーだったギターのクリス・ベルも脱退してしまった。チルトン作のこの曲はアコギ2本だけで歌われる、シンプルだけど美しい曲だ。

「サーティーン」の過去記事はこちら

第2位 ザ・バラッド・オブ・エル・グード(1972)
The Ballad of El Goodo

1st『#1 Record』収録の名バラード。ビッグ・スターの中でも特にポップで親しみやすく、感動的な名曲だ。

「ザ・バラッド・オブ・エル・グード」の過去記事はこちら

第1位 キッザ・ミー(1975)
Kizza Me

『Third/Sister Lovers』は何度か再発され、そのたびに曲順が変わっていたりする変なアルバムだが、わたしの持っていたCDではこの曲が1曲目だった。
フックのあるメロディに、チルトンのヘロヘロなのにどこか惹きつけられる声、不釣り合いにラウドなギターとピアノとストリングスがバトルしてるみたいな不協和なサウンドもカッコ良かった。

「キッザ・ミー」の過去記事はこちら

ビッグ・スターのアルバムを最初に聴くなら、やはりわたしは独自の輝きを放つ名盤『Third/Sister Lovers』を薦めたい。

選んだ10曲がぶっ続けで聴けるプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。

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また、apple musicのプレイリストとしても作成済みです。
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ビッグ・スター【名曲ベストテン】BIG STAR Greatest 10 Songs (goromusic.com)

ぜひお楽しみください。
(by goro)