名盤100選 99 ルー・リ-ド『ニューヨーク』(1989)

New York

1972年の『トランスフォーマー』も名曲が並ぶ名盤でよく聴いたが、わたしの思い入れは当時リアルタイムで聴いた、この『ニューヨーク』のほうがやや上回る。
夜更けに聴くのにちょうどいいテンションのロックアルバムというのも意外と少ないもので、そんなときによくひっぱり出して聴くアルバムだった。

逆に昼間聴くとなんだか合わない。まあルー・リードのアルバムは全部そうかもしれないけど、トム・ウェイツ、ニック・ケイヴと合わせて、わたしには夜の御三家であった。
しかし中でもこのアルバムは、何度も何度も、くりかえし聴いても、飽きのこないアルバムだった。

エレキギターをアコギのように軽やかにかき鳴らしながら、低い声で語るように、なんとなく存在するメロディになんとなく言葉が乗せられていく。
ボブ・ディランを手本にしているのは間違いないけれど、ディランとはまたまったく違った、都会の退廃的なオモムキが、ルー・リードの永遠に変わらない生々しい魅力である。

アルバムを一貫する世界観、必要以上にひねったり完成度を求めすぎたりという変な気負いもなく、まさに等身大のルー・リードを「ちょうどよく」収めた、ひょっとすると彼の生涯でいちばん素直なアルバムであり、だからこそ誰にも真似できない「名盤」ではないかと思う。

ルー・リードも今年で70歳になる。4年前には(知る人ぞ知る)ローリー・アンダーソンと正式に結婚もしたらしい。
ロック史上初のオルタナティヴロック・アルバム、『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』の発表以来、ずっとオルタナロック組合の会長に、ゲイなのかノーマルなのかわからぬまま、君臨している。

Lou Reed’s Fabulous 5 Songs

1. Walk On The Wild Side (1972)
2. Romeo Had Juliette (1989)
3. Strawman (1989)
4. Satellite Of Love (1972)
5. Lady Day (1973)

そして、いよいよこのブログもあと1回だ。
ほかにもベスト100に入れたいアルバムはたくさんあったのだけど、入れられなかったのは、ベスト100に選んだアルバムより低く評価しているということではなくて(むしろもっと高く評価しているものも残している)、わたしがこれまで書く言葉を思いつかなかったということに尽きる。なんだか申し訳ない気持ちだ。

以下は、ベスト100に入ってもまったくおかしくない名盤であり、わたしの長年の愛聴盤だったのに、惜しくもベスト100に選ぶことが出来なかったアルバムたちだ。
あまりにも心残りなので、せめてここにその一部でも書いておこうと思う。

リチャード・ヘル&ヴォイドイズ『ブランク・ジェネレーション』(1977)

ブランク・ジェネレーション

70年代のニューヨークパンクのひとり、リチャード・ヘルこそ、オリジナル・パンクと呼ばれるにふさわしいのかもしれない。
彼のその短く逆立てた髪や、破れたシャツ、声が裏返りそうな独特の歌い方、そのスタイルをイギリスでそっくりそのまま真似たのがセックス・ピストルズであり、その後のパンクのイメージを決定づけたスタイルのオリジネイターである。
このタイトル曲を初めて聴いたときは落雷に撃たれたぐらいの衝撃だった。落雷はまあ大げさに聞こえるだろうけど、わたしにはたまにある、音楽の神様が与えてくれる”電撃バップ”のようなものだ。
間違いなく三本の指に入る、パンクロックのシンボルのような名曲である。

バズコックス『オペレーターズ・マニュアル』(1991)

バズコックス・ベスト

イギリスのマンチェスチターのパンクロックバンド、バズコックスのベスト盤。
マンチェスターの音楽シーンのはじまりは、1977年、バンド結成前の彼らがロンドンで見たセックス・ピストルズを、マンチェスターに招いてライヴをさせたことからだと言われている。
たった42人しか客が入らなかったそのライヴには、しかしその観客のなかにバズコックスの主要メンバーはもちろん、ジョイ・ディヴィジョンのメンバーやモリッシーがいたことで、マンチェスターの音楽シーン活性化の契機となったと言われている。
わたしはパンクロックというものは、音楽的にはポップソングの原点をやっていると思っているのだけど、まさにこのバズコックスなどはそれが非常にわかりやすいと思う。
また、真のアートや音楽にはユーモアのセンスも必要不可欠だとわたしは思っているので、彼らはその点でもセックス・ピストルズ譲りで非常に優れていて、わたしは大好きなのだ。

ブラー『パークライフ』(1994)

パーク・ライフ

なんだか彼らはオアシスに全部持っていかれたような格好になってしまったが、このアルバムが発表されたとき、一度はイギリスのロックバンドの頂点に立った瞬間があったのだ。翌95年に『モーニング・グローリー』が出るまでは。
キンクスをほうふつとさせる、イギリスの庶民の生活を描いたコンセプトアルバム風のこの『パークライフ』は高く評価され、彼らの人気を決定づけた傑作だった。
キンクスに似ているとまでは言わないけど、ちょっとせつない感じや、いかにもイギリスらしい古典的なロックの名盤のような風格のあるアルバムで、当時はよく聴いたものだった。

グレイトフル・デッド『アメリカン・ビューティー』(1970)

アメリカン・ビューティ(紙ジャケット&SHM-CD)

キンクスと言えばグレイトフル・デッド、とはあまり言われないが、1970年頃のキンクスによるイギリスの市井の人々の生活を描いたノスタルジックなコンセプト・アルバムに通じるものが、同じ時代の遠くアメリカのグレイトフル・デッドのアルバムにあるようにわたしは感じている。
昔からの愛聴盤、ではなくて、じつはわたしは近年になって好きになったのだけど、派手なヒット曲もなく、刺激も少なく、うるさすぎず静かすぎす、熱くもなく冷たくもない、常温で流れてゆく感じの音楽が意外に心地よい。若いころだったらきっと退屈に感じただろうけど、年を取ってからこういうぬるい白湯のようなものが気に入ったりもするのだ。
あまりたくさんのアルバムは聴いていないが、このアルバムと、『ライヴ・デッド』(1969)、『ワーキングマンズ・デッド』(1970)を気に入って、よく聴いている。

ファンカデリック『マゴット・ブレイン』(1971)

マゴット・ブレイン

ジョージ・クリントン率いる”P-FUNK”という音楽集団のメンバーによって組まれているバンド。
同じP-FUNKのバンド、パーラメントともメンバーが被っていたりするが、こちらのファンカデリックのほうは、ロック色が強いファンク・バンドだ。
このアルバムでは、ジミ・ヘンドリクスの亡霊が乗り移ったかのような少年ギタリスト(エディ・ヘイゼル)の異様なギタープレイが中心となっている。

オリジナルサウンドトラック『パルプ・フィクション』(1995)
パルプ・フィクション オリジナル・サウンドトラック
サントラからも1枚選ぼうと思って候補にしていたアルバムだ。
クエンティン・タランティーノ監督の、古いポップソングのチョイスと使い方は画期的だった。わたしにとっては、またべつのポップソングの聴き方を学んだような気がしたものだ。
それにしてもこの監督、最近の映画もますます充実してきて、期待を裏切るということがない。クリント・イーストウッドの後を継ぐ映画作家はきっと彼にちがいない。

エンヤ『ウォーターマーク』(1988)

ウォーターマーク

エンヤの日本でのファーストアルバム。
わたしはこれを当時リアルタイムで聴いて大変気に入った。144チャンネルのマルチトラッカーを使って彼女の変幻自在の美しい声を多重録音して制作されたこのアルバムは、幻想的で民族的で、またオーディオ的にも楽しいが、でもなにより、わたしはポップソングとして完成度の高い、何気につい口づさんでしまうような彼女のシンプルな楽曲が好きだ。

ザ・ポリス『グレイテスト・ヒッツ』(2006)

GREATEST HITS 1978-83

ポリスのアルバムは17歳のころにピックアップという貸レコード屋でそのほとんどを借りた。
わたしはその貸レコード店で、ほかにマドンナの『ライク・ア・バージン』やシンディ・ローパーの『N.Y.はダンステリア』や、ビリー・ジョエルとサザンオールスターズとRCサクセションの当時のすべてのレコード、そしてほかにもたくさんのレコードを借りたことを覚えている。レコードレンタルは始まったばかりで、わたしにはレコードをたったの数百円で借りられるなんて夢のような話だった。
ピックアップは小さな店だったけど、現在までこうしてわたしの人格形成に大きな影響をあたえたわけだ(きっとわたしだけではないだろう)。感謝しなければならない。

リトル・リチャード『グレイテスト・ヒッツ』

Little Richard: All-Time Greatest Hits

ロックンロール草創期にエネルギッシュな唱法で大ヒットを連発するが、デビューからわずか2年で突然引退して大学に入学、神学を勉強して牧師になり、しかし5年後には復帰してまたロックンロールを歌うようになる。
彼はゲイであり、ドラッグ中毒に悩んだ過去があり、奇行は枚挙にいとまがなく、ロックンロール草創期の自分の貢献に対していかに評価が足りないかを訴える、躁病質のド派手なファッションのおじさんでもある。
たしかに変わった人ではあるが、彼のロックンロールは永遠に色あせない輝きを放ち、いま聴いてもド肝を抜かれるスーパーシャウトである。
彼がロックンロールの誕生と浸透にどれほど大きな貢献をしたかは、たしかに正当に評価されていない。

バッファロー・スプリングフィールド『アゲイン』 (1967)

アゲイン

60年代後半につくられた、アメリカで最も画期的なロックアルバムのひとつと言えるだろう。ニール・ヤングやCSN&Yのスティーヴン・スティルスなどが在籍したスーパーグループだ。
もしかするとロックの名盤の十指に入るかもしれないが、このブログではすでにニール・ヤング関連でソロアルバムとCSN&Yを選んでいたので、さすがに3つ目は遠慮したのだ。そんなにニール・ヤングばっかり選んでどうする、とわれながら思ったので。

ものすごく斬新で画期的な、ビートルズを超えるようなアルバムをつくる可能性のあったバンドなのに、実質的に3年ほどしか活動していない。ドラッグでのメンバー逮捕や、ニール・ヤングとスティーヴン・スティルスの対立が解散を早めてしまった。
しかも後年、クロスビー、スティルス&ナッシュにもまたニールが入っていって、その挙句またスティルスと対立して解散を早めている。なのにその後もふたりはアルバムをつくったりしているのだからよくわからないが、音楽的な成果だけで言えば、この2人がそろったときは最強であるのは間違いない。

ニール・ヤングの2000年のアルバム『シルヴァー&ゴールド』の中に「バッファロー・スプリングフィールド、アゲイン」という歌がある。タイトルそのままに、あのバンドの仲間たちともう一度集まってやってみたい、という内容の歌なのだが、この歌をわたしは当時、アルバムを聴くよりも先に、たまたまニールの弾き語りの映像をMTVで見て、ものすごく感動した覚えがある。
そして、最近になって知った逸話だが、元RCサクセションの仲井戸麗市もこの曲に感銘を受け、ラジオから清志郎の声で「RCサクセションが~」と流れてきたら面白いと思って、忌野清志郎のソロアルバム用に「激しい雨」という曲を共作し、「RCサクセションが聴こえる~ RCサクセションが流れてる~」という歌詞を書いたのだそうだ。

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コメント

  1. ゴロー より:

    ひさしぶりっ
    最大級のお褒めの言葉、ありがとうございます!

    「堂々」というコンセプト、ですか。
    なるほど、そういう印象なんですね。それは嬉しいです。

    No.100はまだ書いていませんが、そのときはぜひ、トイレで読んでいただければ嬉しく思います。

  2. r-blues より:

    コメントは御無沙汰してましたが
    4年間毎朝、更新通知を楽しみにしてたこのブログも、とうとう残り1回ですか。
    No.99は、ゴール間近の感動が込み上げてくるような、読みごたえのある記事でした(^o^)/。
    卒業式前日のような、ワクワクと寂しさも感じます。

    自称ロックファンの私ですが、聴いてきたのはほんの一部で、このブログに教えてもらった名盤が多々ありました。
    さらには、私の”食わず嫌い”や”偏見と誤解”をしてたアーチストを見直しさせてもらったコトにも感謝したブログでした。

    「堂々」というコンセプト。
    これが清々しく、”独断と偏見”と”公平”のバランスが絶妙で、情報としても頼りになりました。

    さて、このNo.99を読んだとこ、既にNo.100も書き終えてるんじゃないですか?

    そして最後もやはり、朝のトイレで読もうと思います。