パッツィー・クライン/クレイジー(1961)

Crazy

【カントリー・ロックの快楽】
Patsy Cline – Crazy

パッツィー・クラインは1955年にデビューした。
ジョニー・キャッシュと同じ1932年生まれであり、女性カントリー・シンガーとして成功した先駆者でもある。

楽譜は読めないのに絶対音感があり、一度聴いたら忘れられない漆塗りの重箱のような存在感のある声を持つ天才歌手である。初めてカーネギー・ホールで演奏した女性カントリー歌手となり、男性歌手を前座に据えてメインを張った初めての女性歌手でもあった。

この「クレイジー」はウィリー・ネルソンが書いた曲だ。
全米9位の大ヒットとなり、パッツィー・クラインの代表曲となった。カントリーのスタンダード・ナンバーとして、永く愛されている名曲である。

パッツィー・クラインは2度交通事故に遭っている。2度目の事故では乗車中の車が正面衝突し、彼女はフロントガラスを突き破って車外に飛び出す大事故となったが、奇跡的に命に別状はなかった。

「クレイジー」の大ヒットの後、彼女は「長く生きられない気がする」と周囲に語り、遺言を書き、親しい友人にもしものときには子供たちの世話を頼んだという。
そして1963年、バックコーラスの共演者に「3度目の事故に遭ったら、魔法にでもかからない限り死ぬと思う」と語ったその1週間後、飛行機事故により還らぬ人となった。30歳だった。

エルヴィスやジョニー・キャッシュと同様、パッツィー・クラインもまた、今に続くポピュラー・ミュージックの扉を開いた1人として忘れてはならない存在だろう。

作者のウィリー・ネルソンのバージョンもまた素晴らしい。

歌いこなすのは相当難しい曲だと思うが、味わい深く心地よい歌声が、閑さや岩にしみ入る蝉の声と同じぐらいわたしの心にじんじんと染み入ってくる。

すでに正体を失ってからの、就寝前の余計な追加ウイスキーを飲みながら聴くのにうってつけの曲だ。