名盤100選 62 テレヴィジョン『マーキー・ムーン』(1977)

マーキー・ムーン

1970年代後半のニューヨーク・パンクの名盤を3枚挙げるなら、ラモーンズのファースト、ジョニー・サンダース&ハートブレイカーズの『L.A.M.F.』、そしてこの『マーキー・ムーン』だと思う。
また、単にニューヨーク・パンクの名盤ということにとどまらず、その後のロックの流れをつくったと言っても過言ではない、ロック史に残る名盤だ。

フロントマンのトム・ヴァーレインが、「ドアーズが所属したエレクトラレコードと契約したい」と希望して、ほんとうにエレクトラと契約して発売されたのがこのファースト・アルバム『マーキー・ムーン』で、1977年2月に発表されている。

テレヴィジョンは、ドアーズに通じる文学的な歌詞とダークな世界観を持った、アーティスティックなロックバンドだ。
わたしは文学的な歌詞というものにあまり興味が無いので、そこはどうでもいいのだが、まさに突然変異という言葉がぴったりの、美しいのか気持ち悪いのかわからないが一度聴いたら忘れられないヴォーカル、メタリックな響きで熱いとも冷たいとも言える壮絶なギター、そしてありえないような完成度を誇るバンドサウンド。
当時「パンク」と呼ばれたバンドとしては異色の、高い完成度と斬新な個性を持ったバンドで、すでにパンク・ムーヴメントの後にやってくるニューウェイヴの響きがしている。

大音量で聴くとこれがまた素晴らしい。硬質な音が美しく、楽曲はどれも細かいところまでごまかしが無く、しっかり設計されていると感じられる。静と動のメリハリも素晴らしく、クールな印象が強いけど、いやこんな熱い部分もあったんだなあ、などとあらためて発見したりもする。

前回のエディ・コクランの項でわたしは、「いったいいつからロックは、『楽しい』という要素がまったく無いものでも『名盤』と呼ばれるようになったのだろう?」と書いた。

破壊と屁理屈しか感じられない20世紀前半の「現代芸術」に対するカウンターカルチャーとして、魂や情熱や楽しさが理屈抜きで感じられる「ロックンロール」というものが支持され、勝利したのではなかったか。

たしかに芸術的な意味での進化というものは、ロックンロールにも必要だと思う。実験精神も新しいサウンドの追求も大いに必要なのだ。
でもだからと言って、ロックンロールまで、破壊と屁理屈でクソまみれにしないでくれ、というのがわたしの願いなのだ。

そう書いて、テレヴィジョンを思い出したのだ。
衝撃的なまでに斬新なサウンドと、口づさめるようなメロディーが同居した楽しさがここにはある。

テレヴィジョンは、新しいサウンドを構築してロックを進化させた。でもここには破壊も屁理屈も無く、ただズバ抜けた感性による新たな「創造」があるだけだ。
音を磨き上げ、美しいメロディーを創造し、情熱的に音楽を編み上げた、真に芸術的なロックンロールだと言えるだろう。

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