ビル・ワイマン脱退でも久々の傑作【ストーンズの60年を聴き倒す】#58

VOODOO LOUNGE-2009 REM

『ヴードゥー・ラウンジ』(1994)

“Voodoo Lounge” (1994)

The Rolling Stones

前作『スティール・ホイールズ』以来5年ぶりとなるアルバムであり、この間にオリジナル・メンバーとして30年在籍したベーシスト、ビル・ワイマンが脱退してしまった。その理由をキースは以下のように語っている。

1991年にビル・ワイマンがバンドを去ったとき、俺は荒れに荒れた。じっさい、あいつとやりあった。相当ひどく噛みついた。もうこれ以上、空を飛びたくないって言うんだ、あいつは。どのギグにも車で来てたのは、飛行機への恐怖がどんどん募ってきたからだ。そんなの理由になるか! ふざけるな! 信じられなかった。(中略)
あのあと、あいつは何をした? 小売業に足を突っこみ、今はパブを開くことに情熱を注いでいる。一体全体、なんで世界最高のバンドを抜けて「スティッキー・フィンガーズ」なんて名前のフィッシュ・アンド・チップスの店を開いてるんだ? 店の名前にストーンズのアルバムのタイトルまで持ち逃げしやがって。まあ、繁盛してるみたいだけどな。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

ビル・ワイマンの後任は、新メンバーを加入させることなく、サポート・メンバーとしてダリル・ジョーンズが担っている。彼はマイルス・デイヴィス・バンドに5年在籍し、その後ブルース・スプリングスティーンやマドンナのツアー・ベーシストなども務めた、オール・ラウンド・プレーヤーだ。ストーンズのメンバーからの信頼も厚い。

1994年7月にリリースされた本作は、そんなダリル・ジョーンズが参加した初めての作品となった。

こう言ってはなんだが、ビルが抜けたことのダメージは特に感じない。むしろジョーンズの力強いプレーにバンドが活性化しているぐらいだ。

ちなみに本作のジャケットは、ストーンズの全アルバムの中でも最も嫌いなジャケットだ。だから買うのを躊躇した。こんなしょうもないジャケなら、きっと中身もしょうもないに違いないと思ったのだ。前作『スティール・ホイールズ』があまり気に入ってなかったので、きっとさらに悪化しているのだろう、と。だから実のところ、これを聴いたのは発売から数年経ってからだった。

しかし予想に反して、わたしはこのアルバムが気に入った。『スティール・ホイールズ』より断然いい。このアルバムを聴いているとキースの次の言葉を思い出す。

アルバム一枚におけるロックンロールの割合は『べガーズ・バンケット』ぐらいで充分だ。「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル」や「ストリート・ファイティング・マン」を別にすれば『べガーズ・バンケット』にロックンロールがあるとは言いがたい。「ストレイ・キャット・ブルース」には多少ファンクなところがあるが、あとはみんなフォークソングだ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

この意見にわたしは全面的に賛成である。
ストーンズにロックンロールのイメージが強いのは確かだけれども、ストーンズ黄金時代の名盤群にはロックンロールの割合はそれほど大きくはない。それで充分なのだ。なのに78年の『女たち』あたりから、パンクへの対抗心もあったのか、やたらとロックンロールの割合が大きくなったのだ。

しかし本作にはロックンロールと言えるものは「ユー・ガット・ミー・ロッキング」「スパークス・ウィル・フライ」「アイ・ゴー・ワイルド」ぐらいしかない。あとはフォークソングとかバラードとか、ちょっとした実験作だったりと、聴いていて飽きない。

アルバムの冒頭を飾る「ラヴ・イズ・ストロング」は意外なタイプのオープニングナンバーで、わたしはすぐに心を掴まれた。すごくいい。

この曲が第一弾シングルとしてリリースされたが、あろうことか全米91位、全英14位と、ストーンズのシングルとしては久々の不発に終わったのだ。

ストーンズにしては地味な曲と思われたのかもしれないが、ブルースのようなフィーリングにR&Bのようなグルーヴでロックに仕上げた、なんとも独特なミクスチャーのようなカッコいい曲だ。

「ユー・ガット・ミー・ロッキング」は70年代のストーンズみたいな、みんな大好きなロケンロールである。この曲はその後のライヴの定番曲のひとつにもなった。PVもカッコいい。

他には、「ブラインデッド・バイ・レインボウズ」やキースの歌う「ワースト」なんかも好きな曲だ。

このアルバムが久々の傑作となったのは共同プロデューサーに迎えたドン・ウォズのおかげでもあるようだ。キースはこう語っている。

もともと、ドン・ウォズを見つけてきたのはミックだった。ミックが毎回あいつを起用したがったのは、ドンがグルーヴ・プロデューサーだからだ。ノリのいいご機嫌なダンスホール・ミュージックを作る人間だ。『ヴードゥー・ラウンジ』の作業が終わったとき、ミックがドンとは二度と仕事をしないと言った。グルーヴ・プロデューサーとして雇ったのに、『メイン・ストリートのならず者』を作りたがったからだ。ミックはプリンスみたいなのをやりたかった。『ブラック・アルバム』とか、そんなのを。またしても前の晩にクラブで聴いてきたのをやりたくなったんだ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

結果的に『ブラック・アルバム』よりも『メイン・ストリートのならず者』に近いものになったのはなによりだ。ミックも二度と仕事しないと言ったにも関わらず、その後のアルバムでもずっとドン・ウォズを使い続けたのは、そうは言っても彼の手腕を認めざるを得なかったからに違いない。

アルバムは全米3位、全英6位、日本でもオリコン9位と、オルタナティヴ・ロックがシーンを席巻していた分の悪い時代にしては、好成績を収めている。

(Goro)

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