ザ・ローリング・ストーンズ/ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン(1978)

女たち

ザ・ローリング・ストーンズ
【100グレイテスト・ソングス】#64
The Rolling Stones – Before They Make Me Run

1977年、カナダでのショーのために恋人のアニタとトロントのホテルに宿泊していたキースは、警察のガサ入れに遭う。
すぐにヘロインが見つかったが、1人分にしては多すぎる量だったことで、「麻薬所持」ではなくさらにその上の「麻薬違法取引容疑」、つまり売人の罪で逮捕される。

カナダでは、少なく見積もっても禁固7年、最悪の場合は終身刑も有り得る重罪だった。
ストーンズ史上最大の危機であり、解散か、または新しいギタリストを探さなければいけない、という状態だったという。
その裁判が進行中にこのアルバム『女たち』は制作され、キースも保釈中の身でレコーディングに参加した。

キースがリード・ヴォーカルを取り、「やつらに追い立てられ、走らされる前に、自分で歩き出さなきゃならない」と歌うこの曲を、キースはトロント事件についての「心の叫びだった」と語っている。

アルバム発売後の裁判で判決が出た。
「カナダ盲人協会のためにチャリティ・コンサートをする」という条件で、キースは保護観察処分となった。
この法外な温情判決は、ヒッチハイクでストーンズを追いかける盲目の少女リタのおかげだった、とキースは語っている。

あの子の話は楽屋で聞いていたし、暗闇で親指を立ててヒッチハイクしてるのかと思うとたまらなくなった。俺はあの子をトラックの運転手たちに紹介して、安全に車が拾えるようにし、食べ物ももらえるように手を打ったんだ。俺が逮捕されたとき、リタは苦労の末に判事の家にたどり着いてこの話をしてくれた。判事が目の不自由な人たちのためにコンサートを開くってアイデアにたどり着いたのはそういうわけだ。わが盲目の天使、リタ。
(キース・リチャーズ『ライフ』棚橋志行訳)

ストーンズの数あるエピソードの中でも、最高に感動的な話だ。
盲目の少女リタの尽力がなければ、その後のストーンズはなかったかもしれない。彼女は世界最高のロックバンドを救ったのだ。
盲目の天使・リタに、感謝を捧げよう。

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