名盤100選 31 ソニック・ユース『GOO』(1990)

GOO
さてソニック・ユースである。

彼らはNYアンダーグラウンドの帝王と呼ばれていた。
彼らはテレヴィジョンやリチャード・ヘルなどのNYパンクの直系である。
彼らはわたしに影響を与えた。

1990年、24歳のわたしが60~70年代のクラシック・ロックから卒業するきっかけを与えたのは彼らだった。
同時に、わたしがどうにも肌が合わないと感じていた80年代のちまちましたロックが終わったことを告げてくれたのも彼らだった。
わたしにとっての90年代ロックの幕開けはこのアルバムの「ダーティ・ブーツ」のあの美しくも不穏なイントロからだった。

このアルバムはアート系の繊細さとパンク系の大胆さが絶妙なバランスで両立している。
サブカルチャーと前衛芸術が両立し、インテリジェンスと野蛮が両立している。

ベースのみが女性、というバンドはなぜか多い。
ソニック・ユース以外にも、スマッシング・パンプキンズ、ピクシーズ、ギャラクシー500、サブウェイズ、ホワイトゾンビ、古くはトーキング・ヘッズもそうだし、日本ではスーパーカーやRIZEもそうだった。
女性がベースというのは絵になる。女性がベースというだけで音を聴いてみたくなる人も多いことだろう。
わたしもそのひとりだ。

フロントマンのサーストン・ムーアはわたしが最も好きなギタリストのひとりである。
彼のギターの音はラウドであるが、シャープで軽い。紡ぎだすノイズは白く発光するように美しい。
エレキギターとは基本的にノイズを出す楽器である、ということにわたしが気づいたのも彼のギターを聴いてからである。
そしてノイズこそがリアリティを伝えている、ということにわたしが気づいたのも彼のギターを聴いてからである。

彼らはアンダーグラウンド・シーンの多くのアーティストから尊敬され、影響を与えた。
米国のアンダーグラウンド・シーンからメジャー・デビューするという禁じ手を最初に破ったのはソニック・ユースである。
それ以降多くのバンドが続々と彼らに続いた。
ニルヴァーナがブレイクしたのはソニック・ユースがその扉を開いたおかげである。
また1989年に彼らが参加したニール・ヤングのトリビュート・アルバム『ザ・ブリッジ』における「コンピューター・エイジ」の、原曲を圧倒的に超えたカバーは、80年代迷いに迷っていたニール・ヤングを目覚めさせ、轟音ギターを復活させるきっかけとなった。

当時のソニック・ユースはよく音楽雑誌に登場した。
彼らのインタビューで必ずと言っていいほど訊かれたのは「最近のバンドで良いのは?」という質問である。
われわれは彼らを無条件に信用していたので、彼らが挙げる後輩バンドたちのCDを片っ端から聴き漁った。
そうやってソニック・ユースのおかげで知ったバンドがダイナソーJrやニルヴァーナ、マッドハニー、少年ナイフなどだった。

このアルバムからシングル・カットされた「ダーティ・ブーツ」のPVがわたしは好きだった。
ソニック・ユースが演奏中のライブ会場で気の弱そうな冴えない少年とロック好きの少女が出会って惹かれあい見つめ合い、最後に2人がステージに駆け上がって濃厚にキスしているところを警備員に引き離され投げ飛ばされ、宙を翔けるように客席にダイブする。
この「冴えない少年」が意を決したようにステージに駆け上った瞬間がグランジの始まりであったとわたしは思う。
ちなみに少女のほうはニルヴァーナのTシャツを着ている。
ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』が発売される、1年3ヶ月前のことである。

コメント

  1. ゴロー より:

    ああたしかにそうですね
    ちなみに「ソニック」はMC5のギタリストでパティ・スミスの旦那だったフレッド・ソニック・スミスから取って、「ユース」はレゲエ・ミュージシャンの名前から取ったらしい。
    あまり特別な意味はないそうですね。

  2. フェイク・アニ より:

    キム・ゴードンと私
    ソニック・ユース、何がカッコ良いってバンド名がカッコ良いよね。