イーグルス/懐かしき’55年(1974)

On the Border [Analog]

【カバーの快楽】
Eagles – Ol’ ’55

イーグルスの3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー(On the Border)』収録曲。原曲はトム・ウェイツの1973年のデビュー・シングルで、初期の代表曲となった「オール’55」だ。

トム・ウェイツのデビュー当時、アサイラム・レコードの創設者デヴィッド・ゲフィンがデモ・テープをイーグルスのグレン・フライに聴かせたところ、この曲を気に入ってカバーすることになったそうだ。

「オール’55」とは「1955年型の古い車」という意味で、実際にトム・ウェイツが乗っていた、55年型ビュイック・ロードマスターのことだ。
当時で18年落ちの車なので、最新の車ほどスピードが出ないため、後ろに車が繋がってしまう。古くたって最高の車だから、仕事を終えて夜明けのフリーウェイを走っていると、まるでパレードの先頭を走ってるみたいな最高の気分になるんだ、と歌っている

イーグルスの国内盤では「懐かしき’55年」という邦題が付けられたが、この邦題だとさらなる連想が膨らむ。

1955年と言えば、エルヴィスやチャック・ベリー、リトル・リチャード、ジョニー・キャッシュなどがデビューした、ロックンロール誕生の年だ。
「懐かしき’55年」というタイトルからは、古くても最高の車のことを歌ってる歌詞が、まるで古くても最高の音楽をことを言ってるように聴こえる。

そう考えると、後の「ホテル・カリフォルニア」の有名なフレーズ「69年のスピリットはもうここには無いんだ」にまで連想は繋がっていく。

1955年に生まれ、60年代に新しい時代と自由の象徴として花開いたロックが、70年代の半ばにしてそのスピリットを失っていき、商業主義に飲み込まれていった、ロックの時代の終わりのメタファーのような、落日の寂しげなホテルの歌へと繋がっていく。

というのはあくまでわたしの自由な連想によるものだけれども。

でもまあ、需要の大きさがとんでもない規模になったのだから、供給の規模も必然的に大きな産業にならざるを得なかっただろうし、競争原理も働いて、色んな種類のものが続々と出てきて、70年代ロックは百花繚乱の時代になったとも言える。
宝石からゴミまで多種多様だったが、必ずしも宝石ばかりが良いわけでもなく、ゴミの良さだって見つかるのがロックという音楽の面白いところだ。

そのうえ心配ご無用、古いスピリットが失われれば、ちゃんと新しいスピリットが生まれるもので、当時すでにニューヨークとロンドンに、次の時代をつくるパンク・ロックという新たなロック・スピリットが胎動し始めていたのだ。