名盤100選 88 MC5『キック・アウト・ザ・ジャムズ』(1969)

キック・アウト・ザ・ジャムズ

そのちょっと気取った天才君のプリンスとは真逆のMC5は、もしも音楽にも温度というものがあれば、最高温サウンドとしてギネスに認定されていたかもしれない、体感温度ナンバーワンのロックバンドだ。
今年の猛暑をさらに熱く演出したいなら、ぜひこのアルバムを大音量でかけ、窓を全開にしてドライブすることをおすすめする。

MC5は1969年に本アルバムでデビューした米国デトロイトのロックバンドだ。
3年ほどの活動期間で3枚のアルバムを残したが、商業的には成功したとは言えなかった。
しかし後の英米のパンク・ムーヴメントが巻き起こると、そのパンクの源流としてストゥージズとともに再評価され、本アルバムも伝説的名盤として聴き継がれるようになった。

メンバーで比較的よく名前が知られているのはギターのフレッド・ソニック・スミスで、後にパティ・スミスと結婚し、1994年に死んだ。ソニック・ユースのバンド名のソニックも、このギタリストの名前からとられている。

とにかくアツい。そしてうるさい。とんでもなくうるさい。
しかしその唯一無二であったとんでもなくうるさいサウンドを、ろくなPAもノウハウも無い1969年に、しかもライヴ盤で、ここまでリアルで分離が良く聴きやすい録音を残せたのは驚くべきことだ。わたしにはそれがまず奇跡的であると思える。リアルだから余計に、ものすごい迫力である。

わたしもパンクはピストルズやクラッシュから入って、スピード感とポップなメロディと軽くテンションの高いノリにハマって聴き漁り、そのうちさかのぼってMC5を聴いたときにはその本気度が高すぎる切迫感と、必要以上の重量感と破壊力になんだか頭をガツンとやられたような気がして、それからはもうちょっと本気な気持ちでロックを聴くようになった気もするのである。

昨年の忘年会で、入ったばかりの新人社員(と言っても30過ぎの既婚)となぜだか音楽の話になり、帰り際に彼が「今日はほんとに感動しました。まさかMC5を知ってる人に会えるとは夢にも思ってなかったですし、それがまた上司だなんて、なんかこの会社に入って良かったって気がしてきました」と言ったものだった。
ロック好きなんて単純なもので、ほかのことはなにも知らなくても、そんなふうにすぐ、魂の底の方でつながるのである。

記事を書いた人(Goro)

愛知県在住。中学卒業後、無知蒙昧のまま社会にさ迷い出て、底辺職を転々した後、地元の映画館に拾われる。映画館に10年勤めた後、レンタルビデオチェーンのバイヤーを20年勤め、現在は再び底辺職で肉体労働の日々に返り咲く。心に平安が訪れている。生活に不満はなし。音楽にはいろいろと救われている。「映画は映画館で観なきゃダメ派」ではない。

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