あの時やこの時の残り物を引っ張り出してきて取り急ぎ作ったにしては大ヒットしたアルバム【ストーンズの60年を聴き倒す】#50

 刺青の男

『刺青の男』(1981)

“Tattoo You” (1981)
The Rolling Stones

ツアーのスケジュールも決まっていたので、それまでにアルバムを出す必要があったが、ミックとキースの仲がどうにもよろしくないため曲が出来ず、仕方なく、過去にお蔵入りになっていた曲を探し出してきて、無理やりまとめたアルバムが本作だ。1981年8月にリリースされた。ミックはapple musicに以下のように語っている。

確かレコード会社から『アルバムはどこだ?』って言われた。それで、『え、ないよ』って言うと、『だったら、この8年間に作ったものをもう一度確認したらどうだ?何かしらあるはずだ』って言われた。それでスタジオに戻って、音源をあさったんだ。トップラインも抑揚もメロディもまったくない曲がいくつもあった。(中略)それでキースと俺でそういう曲を何とかしようとしてみた。そうやってアルバム全体を仕上げていったら、俺はとても短い時間で歌詞を大量に書く羽目になったんだ。

SIDE A

  1. スタート・ミー・アップ – Start Me Up
  2. ハング・ファイヤー – Hang Fire
  3. 奴隷 – Slave
  4. リトルT&A – Little T&A
  5. 黒いリムジン – Black Limousine
  6. ネイバーズ – Neighbours

SIDE B

  1. ウォリード・アバウト・ユー – Worried About You
  2. トップス – Tops
  3. ヘヴン – Heaven
  4. 泣いても無駄 – No Use in Crying
  5. 友を待つ – Waiting on a Friend

この時に書かれた新曲は「ネイバーズ」と「ヘヴン」だけで、しかも「ヘヴン」にはキースとロニーは参加していない。

それ以外は過去のアルバム制作時にお蔵入りになっていたトラックを、いろいろ足したり引いたり加工して作られたものらしい。そんな寄せ集めの割には、それほど違和感もなく聴けるのはミキシング・エンジニアのボブ・クリアマウンテンの手腕によるものだ。

オープニングの「スタート・ミー・アップ」は80年代のストーンズを代表する人気曲だ。シングルカットされ、全米2位、全英7位の大ヒットとなった。

中学の頃はラジオの音楽番組を熱心にエアチェックしていたわたしはこの曲がラジオで流れるのを何度か聴いたが、今思えばわたしにとって初めて聴いたストーンズ・ナンバーがこれだったということになるのだろう。

なにしろこのイントロのギターの音にシビれたものだった。
まさに体に電気が走るようなインパクトだ。これほど耳に残るギターのイントロもそうそうないだろう。

90年に東京ドームで見たストーンズのライヴも、この曲がオープニング・ナンバーだった。ついにストーンズを生で見る瞬間だったのに、東京ドームにファンファーレのように響き渡ったこのイントロにビリビリと感電して、一瞬にして眼球が潤んでよく見えなくなってしまったものだ。

2ndシングルになったのは「友を待つ/リトルT&A」で、全米13位のヒットとなった。
「友を待つ」は73年の『山羊の頭のスープ』のときのアウトテイクで、バックトラックのみで歌は入っていなかったため、ミックが急遽歌詞を書いて歌を入れたそうだ。バンド内の友情について歌った愛にあふれた歌で、当時キースとの仲がしっくり行っていないことを気にして書いたようなのが微笑ましい。歌詞に合わせたPVもすごくいい。ストーンズ史上一番微笑ましいPVだ。

「友を待つ」「奴隷」「ネイバーズ」でサックスを吹いているのは、いつものボビー・キーズではなく、ジャズ界の超大物、ソニー・ロリンズである。

日本版リマスターCD1994年)の越谷政義による解説によれば、ミックがジャズ界のサックス奏者を起用しようと、ジャズに詳しいチャーリー・ワッツに相談すると、ワッツは「絶対に来るはずがない」と思いつつロリンズの名前を出した。数日後スタジオにそのロリンズが来ているのを見た時には思わず感嘆の声を上げ、「改めてミック・ジャガーのすごさに感心した」そうだ。

アルバム全体にカラッとした抜けの良い音質が気持ちいい。A面がロックンロール。B面がスロー・テンポのバラードとはっきり分かれた構成だ。A面は存分に楽しめるものの、B面はわたしにはちょっと退屈だ。「ヘヴン」みたいなストーンズらしからぬオシャンティなトラックはいつも飛ばしてしまう。

シングル以外では、「ハング・ファイアー」「ネイバーズ」も好きだな。いちいちPVがあって嬉しい。どれもこれもダサダサだけど、まあこの時代のPVなんてこんなもんだ。

アルバムは全米1位、全英2位とよく売れた。

(Goro)

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