1998 史上最恐映画の衝撃【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その18

リング の映画情報 - Yahoo!映画

1998年と言ったら、わたしがレンタルビデオ店の店長をやっていた頃だ。映画館に勤めていた頃ももちろん映画はよく見たけれども、レンタルビデオ店というともう何万本というビデオ作品を扱っているわけで、もちろん全部見れるわけはないけれども、自分の店で扱っている商品をできる限り見ておかねばという気持ちにはなるもので、必然的に見る本数は激増した。最低でも毎日1本以上は何かしら見るのが当たり前の日課になっていった。

パニック映画の大流行がこの時期にピークを迎え、『ディープ・インパクト』(’98)や『アルマゲドン』(’98)といった作品が公開され、大ヒットした。
レンタル店の新作棚に大量に並べられ「ビッグタイトル」と呼ばれる作品とは、そんなハリウッドのパニック大作やアクション映画、他にサンスペンスとホラーが少しといった偏ったものだった。ラブロマンスやシリアスなドラマ作品は人気がないので入荷数も少ない。邦画は劇場映画よりもOVAのヤクザ映画の方が人気があり、ビッグタイトルなどというものは滅多になかった。アニメも今と違って、売り上げの割合はごく小さなものだった。

わたしももちろん、稼ぎ頭のハリウッド大作などはすべてチェックするのだけれども、ハリウッド映画というのはたくさん見ているとどれもこれも大まかなパターンは同じようなものだということに気づいてくるし、撮り方も編集も似通っているし、出演者やストーリーが違っても大まかに言えば大体同じ、みたいな印象になってくる。ぶっちゃけ、飽きてくるのだ。

そうなるとできるだけ、そういうのからはみ出すようなものを見たくなるのは人情というもので、結局わたしは映画も、音楽の好みと同じように、オルタナティヴなものや監督の個性が強いものなどに惹かれてしまうのだ。

以下に、1998年に日本公開した映画の中から、わたしが死ぬまでにもう一度見ておきたいと思うものを黒太字で挙げてみよう。

イランのアッバス・キアロスタミ監督の『桜桃の味』(’97)が公開されたのもこの年だが、キアロスタミ監督作品は以前にまとめて紹介済みなので今回は省略するが、それこそハリウッド映画のような画一的なスタイルからは対極にあるものだ。とにかく裏切られ続ける。

『ムトゥ踊るマハラジャ』 5.1ch デジタルリマスター版(字幕版)

この年一大ブームを巻き起こしたインド映画の『ムトゥ踊るマハラジャ』(’95)は、ハリウッドでもとっくに失われたベタベタの物語が怒涛のように展開し、スペクタクルとすら言える壮大なダンスシーンなど、すべてがやりすぎで時代錯誤的だが、エンターテインメント魂に貫かれ、それがすこぶる腕の良いプロフェッショナルたちの知恵と技術の結晶によって創り上げられているのがわかるのだ。

洋画と言えばほとんどアメリカ映画しか見ていないわれわれには新鮮であり、ショックでもあった。女優がまた、ハリウッドでさえ今やすっかり見かけないほどの、こういうのを絶世の美女と言うんだろうなあと思うような絶世の美女たちが続々と出てくる。2時間45分がちっとも長く感じない一因でもある。主人公の男性は胡散臭いテキヤのおっさんみたいな変な顔だけれども、インドでは大人気スターらしい。

フェイス/オフ の映画情報 - Yahoo!映画

もちろん、ハリウッド映画が全部ダメなどと言うつもりはない。香港のジョン・ウー監督がアメリカに進出して撮ったアクション大作『フェイス/オフ』(’97)は、ジョン・ウーの良いところが全部出たような、ひと味もふた味も違う傑作だった。ケイジとトラボルタも良かった。

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち の映画情報 - Yahoo!映画

スティーヴン・ソダーバーグ監督『アウト・オブ・サイト』も(’98)一味違う新鮮なサスペンスアクション映画だったし、ガス・ヴァン・サント監督によるシリアスで深みのある青春映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(’97)など、ハリウッドにもちゃんと新鮮な作品は生まれていた。

L.A.コンフィデンシャル の映画情報 - Yahoo!映画

好きだったのに、性加害問題以降すっかり見かけなくなったケヴィン・スペイシーと、この頃からぐいぐいノシてくるラッセル・クロウが主演した『L.A.コンフィデンシャル』(’97)も良かったし、スピルバーグ監督による本当に痛そうな戦争映画『プライベート・ライアン』(’98)も傑作だった。

2023年最新】ヤフオク! -ガンモ(映画、ビデオ)の中古品・新品・未使用品一覧

ドキュメンタリー・タッチの特異な作風で描かれるハーモニー・コリン監督の『ガンモ』は衝撃的な作品だった。当時32歳のまだまだ若者気分のわたしは大いにシンパシーを感じたものだが、見る人によっては唾棄すべきクズ映画だと言うことも理解できる。今ならどんな風に見えるのか、これももう一度見てみたいものだ。

オースティン・パワーズ(字幕版)

特異な作風といえば、マイク・マイヤーズ主演の、思いっきり下品ながら素晴らしいセンスを感じるコメディ『オースティン・パワーズ』(’97)もわたしの好きな作品だ。アメリカのコメディ映画はあまり積極的に見ないわたしだが、このシリーズだけは全作品見ている。

リング

しかしこの年の最大の衝撃はなんと言っても日本映画の流れを一気に変え、活性化させた中田秀夫監督の『リング』(’98)だろう。これまでのホラー映画が全部色褪せるほどの恐ろしさは、そのストーリーだけではなく、細かい演出や撮り方、音の使い方まですべてにおいて斬新で完璧で衝撃的だった。わたしはもう5回ぐらい見たが、何度見ても色褪せない傑作だ。この作品がジャパニーズ・ホラーブームの火付け役となり、邦画に若い観客が戻ってくるきっかけにもなった。

愛を乞うひと の映画情報 - Yahoo!映画

この年の邦画ではバイク事故から奇跡の生還を果たした北野武監督の復帰作『HANA-BI』(’98)はさすがの名品だったし、平山秀幸監督の『愛を乞う人』(’98)も原田美枝子の美しさも相まって素晴らしい作品だった。

プライド 運命の瞬間 [DVD]

津川雅彦が東條英機を演じた東京裁判の映画『プライド・運命の瞬間』(’98)は、それまで左翼的な自虐史観の歴史認識しかなかった無知蒙昧のわたしにとって、やはりこの年に発行された小林よしのりの大著『戦争論』と共に、考えを大きく改めるきっかけとなった作品だった。時代も変わったし、自分も変わっている、そんな気がし始めていたものだ。

(Goro)