“ヘヴィメタル”という悪魔の誕生。ブラック・サバス『パラノイド』(1970)【食わず嫌いロック】#12

Paranoid
Black Sabbath
Paranoid (1970)

若い頃からハード・ロックが食わず嫌いで、奴らを避けて生きてきたわたしでもさすがに「パラノイド」と「アイアン・マン」は知っていたし、カッコいい曲だなと思っていた。だからHR/HM界隈では、このブラック・サバスは好感を持っていたほうだ。

なのにアルバムは聴いていない。CDショップの「HR/HM」コーナーには決して足を踏み入れることがなかったからだ。
なので今回は初めて、彼らの代表作と言われる『パラノイド』を聴いてみた。

本作は1970年8月に発売された、彼らの2ndアルバムだ。全英1位、全米12位を記録するヒットとなった。その重量級の重苦しいサウンドとホラー映画のような世界観は、ロック史に「ヘヴィメタル」という悪魔が誕生した瞬間でもある。

しかし、ヘヴィメタルの父であるはずのオジー・オズボーンは、ビートルズの熱狂的ファンであることでも知られている。彼の奥様の「結婚してからというもの、夫がビートルズを聴かなかった日は1日もなかったわ」という証言でも明らかだ。

その影響もあるのだろう、歌メロなど随所にポップな要素が見え隠れする。地獄の業火のようなギターに合わせて、地獄の鬼が低くハミングするようにベースもよく歌う。
ポップな要素とヘヴィなサウンドの組み合わせ、静かなパートから爆音へのドラマティックな展開などは、ニルヴァーナなど90年代ロックの手本にもなっていた。

このバンドの悪魔的な部分がヘヴィメタルに受け継がれ、人間くさい部分がニルヴァーナなどに受け継がれたと言えるかもしれない。そんな両方の要素を併せ持つバンドであることは間違いない。

わたしがハード・ロック界隈のバンドの中でも比較的好感を持っていた理由のひとつに、オジー・オズボーンのあの声もある。ハード・ロックのヴォーカリストにありがちな、金切り声で「高い声出るぞぉぉぉーー」と叫ぶ感じではなく、普通の人が普通ぐらいに一生懸命歌っている感じがわたしは好きなのだ。

悪魔に憑かれたかのような、重苦しく、攻撃的なサウンドながら、どこかポップだったり叙情性を感じさせたり、ロックンロールの高揚感を感じたりと、さまざまな要素が感じられる不思議な魅力を持った作品だ。

最初から最後まで、まったく飽きさせない名盤である。

(Goro)